認知症になると不動産が売れない?

司法書士の仕事の1つに「不動産取引の立会(たちあい)」があります。

不動産売買の取引は、当たり前のことですが、不動産を売りたい人(売主)と、買いたい人(買主)の双方の意思がマッチしてはじめて成り立つものです。

これを前提に、売買による所有権移転登記手続きの申請代理を行う司法書士としては、売主・買主双方の本人確認・意思確認を行っています。

最近ニュースでも取り上げられた土地所有者の「なりすまし」は、まさにこの売主の本人確認をかいくぐろうとした行為です。

この事件の詳細はわかりませんが通常、司法書士は、不動産取引に立会い、売主・買主本人に必ず面会し、本人であることの確認と、取引の対象になっている不動産の確認、その不動産を売却することの意思確認、その不動産を購入することの意思確認を行っています。

いわゆる「人・物・意思」の確認です。この3点セットはどんなことがあっても確認を怠ってはいけないと司法書士事務所の補助者時代、司法書士試験合格後の新人研修などでも繰り返し教え込まれます。

 

少し前置きが長くなりましたが、不動産取引の現場で、売主である人が認知症であった場合をイメージしてみましょう。

司法書士は、不動産取引の当日、初めて売主に会う場合もあります。

その際、司法書士が「人・物・意思」の確認をしようとした場合、売主の方が認知症だと、その方が誰であるかの確認、取引をしようとする物件の特定、物件を売却するかしないかの意思確認ができないことになります。

その結果、司法書士としては、依頼者からの登記手続き代理業務を進めることができませんから、その旨をその他の不動産取引関係者(買主、仲介業者、銀行、売主の親族など)に告知することになります。

「その他の不動産取引関係者」の中には、「せっかくここまで準備をしてきたんだから、何とかしてくださいよ!」などと迫る人もいますが、司法書士しては登記申請手続きの依頼を確認できない以上、お断りするしかありません。

私の経験では、売主の意思能力の有無について判断が微妙な場合は、あらかじめ仲介業者の担当者の方から連絡きて、取引の前に司法書士が売主の方と面談をするというケースがありました。その結果、売主の方の意思確認ができないとして依頼をお断りしたこともあります。逆に意思確認もきちんとできていれば、通常の不動産取引の立会として登記申請手続きを進めることになります。つまり通常の場合、「認知症になると不動産は売れない。」ということになります。

 

しかし、「不動産の所有者が認知症になっても不動産が売れる。」場合があります。

それは認知症である売主の方に成年後見人(または保佐人、補助人、任意後見人、以下単に「後見人」とします。)がついている場合です。

成年後見人は、認知症である本人の法定代理人ですから、本人を代理して不動産を売却することができる立場にあります。

ただし、大前提として成年後見人は、本人のために身上監護・財産管理をしなければなりませんから、その売却が本当に本人の利益になるのかどうかをよく考えて行動しなければなりません。

また居住不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。

単に「管理が面倒だから」とか、「もう住んでいないから」という理由だけでは売却が認められないケースもあります。

このように認知症になってからの不動産の売却というのは、ハードルが高いことがわかると思います。

 

家族信託(民事信託)では、まったく状況が違います。

本人が元気な時に家族信託(民事信託)契約をしていて、契約の内容として受託者が信託財産中の不動産売却を可能となっていた場合は、のちに本人が認知症になったとしても、受託者は信託財産となっていた不動産を売却することができるようになっています。ただし、ここで「本人」という言葉の使い方が違ってきていることに注意が必要です。

 

家族信託では信託契約時点で財産を信託財産として預ける人のことを「委託者」といいます。委託者が信託契約によってそれまで自分の固有の財産だったものを信託財産として拠出した時点で、本人固有の財産から手を離れることになります。その結果、のちにその委託者である「本人」が認知症になっても、すでに手を離れて存在し信託財産の管理は、「信託の目的」にしたがって受託者が管理運用をしているので、何ら影響を受けることはないということになるわけです。

 

家族信託で多く利用されている「実家売却信託」はこのような考え方をもとにしているということになります。

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