成年後見制度での不動産売却|手続きと注意点を司法書士が解説

ご家族名義の不動産売却、こんなお悩みありませんか?

「高齢の父名義のマンションを、できるだけ早く売却して施設費用にあてたいのですが…」
「認知症の診断を受けた母の自宅を売るには、どうすればいいのでしょうか?」

私たち司法書士のもとには、このような切実なご相談が数多く寄せられます。特に多いのが、次のようなご質問です。

  • 不動産屋さんは大丈夫と言っているのですが売却は可能ですか?
  • 成年後見人が必要になった場合、家族(妻や子)がなることはできますか?
  • 後見制度が始まる前に、なんとか売却できませんか?

こうしたご相談を受けるたび、専門家として「もっと早い時期にご相談いただけていれば、選択肢はたくさんあったのに…」と、もどかしい思いをすることが少なくありません。

ご家族の判断能力に少しでも不安を感じ始めたとき、多くの方がどうして良いか分からず、時間が過ぎてしまうのが現実です。しかし、不動産売却のような重要な法律行為は、ご本人の意思がはっきりしているうちに進めるのが大原則。タイミングを逃すと、手続きが複雑になったり、ご家族が望むような柔軟な対応が難しくなったりすることがあります。

この記事では、成年後見制度を利用した不動産売却について、手続きの流れや注意点を司法書士の視点から分かりやすく解説します。不安を抱えているあなたに、今できる最善の一歩を踏み出していただくための道しるべとなれば幸いです。

まず確認すべきは「ご本人の判断能力」の現状です

不動産売却の手続きを考える上で、最も重要なのが「ご本人の判断能力(法律上は意思能力といいます)がどの程度あるか」という点です。これは、不動産売買のような重要な契約を、ご自身の意思で理解し、決定できる能力のことを指します。この能力がなければ、たとえ署名や押印があったとしても、契約は法的に無効となってしまうからです。

ご家族の状況を客観的に把握するために、判断能力のレベルを3つの段階に分けて考えてみましょう。

レベル1:ご自身の意思で契約内容を理解・判断できる状態

ご本人が、売買契約書の内容を読み、その意味を理解し、「この不動産を、この金額で、この相手に売る」ということをご自身の意思で決定できる状態です。物忘れが増えたなど、多少の心配があったとしても、このレベルの判断能力が維持されていれば、成年後見制度を利用せずに不動産を売却できます。

この段階であれば、通常の委任状を作成してご家族が代理で手続きを進めたり、将来のさらなる判断能力の低下に備えて「任意後見契約」や「家族信託」といった対策を講じたりすることも可能です。選択肢が最も多いこの時期に、早めに専門家へ相談することが理想的です。

レベル2:判断能力に不安はあるが、意思疎通は可能な状態

「最近、同じことを何度も聞く」「お金の管理が少し心配」など、判断能力に明らかに衰えが見られるものの、日常会話は問題なく、ご自身の希望を伝えることができる状態です。いわゆるグレーゾーンと言えるでしょう。

この段階での不動産売却は、非常に慎重な判断が求められます。私たち司法書士のような専門家がご本人と直接面談し、売却の意思を丁寧に確認する必要があります。もし、この意思確認ができないと判断されれば、契約は無効となるリスクがあります。まだ家族信託などの対策が可能な最後のタイミングかもしれません。一刻も早く専門家への相談をおすすめします。

レベル3:ご自身の意思で契約を判断するのが難しい状態

認知症が進行し、ご自身の財産を認識したり、契約の内容を理解したりすることが難しい状態です。この段階に至ると、たとえご家族であっても、ご本人に代わって不動産を売却することはできません。無理に手続きを進めてしまうと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。

このような状況で法的に不動産売却を進めるための唯一の選択肢が「成年後見制度(法定後見)」の利用です。判断能力の低下は、ご本人の財産が管理できなくなる「資産凍結」というリスクに直結します。成年後見制度は、ご本人の大切な財産を守り、適切に活用するための重要な制度なのです。

成年後見制度を利用した不動産売却の全手順

ご本人の判断能力が十分でないと判断された場合、成年後見制度を利用して不動産売却を進めることになります。その手続きは、家庭裁判所の関与のもと、厳格なルールに則って進められます。ここでは、その全体像を4つのステップに分けて解説します。

成年後見制度を利用した不動産売却の4つのステップを示すフローチャート。申立て、後見人選任、処分許可、売買契約の流れを図解しています。

ステップ1:家庭裁判所への成年後見開始の申立て

まず、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、「成年後見開始の審判」を申し立てます。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです。

申立てには、申立書のほか、ご本人の戸籍謄本や住民票、財産に関する資料、そして判断能力に関する医師の診断書など、多くの書類が必要となります。これらの書類を不備なく準備するのは大変な作業であり、手続きに不安がある場合は、司法書士などの専門家に依頼することも可能です。費用は、裁判所に納める実費(収入印紙や郵便切手代など)のほか、鑑定が必要な場合は鑑定費用(5〜10万円程度)がかかります。

ステップ2:成年後見人の選任【親族?専門家?】

家庭裁判所が申立てを受理すると、ご本人の状況を調査した上で、成年後見人を選任します。申立時に候補者を立てることはできますが、最終的に誰を選任するかは裁判所が判断します。

「家族が後見人になりたい」と希望されるケースは多いですが、申立時に候補者を立てても、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。そのため、事案の内容や本人の状況等によっては、司法書士や弁護士などの専門家が「専門職後見人」として選任されることもあります。

ステップ3:家庭裁判所への「居住用不動産処分許可」の申立て

成年後見人が選任された後、いよいよ不動産売却に向けた手続きに入りますが、すぐに売れるわけではありません。売却対象の不動産が、ご本人が現在住んでいる、または過去に住んでいた「居住用不動産」である場合、売却するには別途、家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」を得る必要があります。

これは、ご本人の生活の基盤である住まいを失うことのないよう、裁判所がその必要性を厳しく審査するためです。許可を得るためには、「施設への入所費用を捻出するため」「介護費用にあてるため」といった、ご本人の利益になる明確な理由と、売却の必要性を示す資料(不動産の査定書、施設のパンフレットなど)を提出しなければなりません。この許可なく行われた売買契約は無効となります。

申立書の書式については、裁判所のウェブサイトで確認できます。

ステップ4:不動産会社との媒介契約と売買契約の締結

無事に家庭裁判所から売却の許可が出たら、成年後見人がご本人を代理して、不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始します。買主が見つかり、売買契約を締結する際も、成年後見人が代理人として署名・押印します。

重要なのは、売却によって得られた代金の管理です。売却代金は成年後見人が管理するご本人名義の預金口座に入金され、あくまでご本人の生活や介護、医療のために使われます。ご家族が自由に使えるわけではなく、後見人はその使い道をすべて家庭裁判所に報告する義務があります。この厳格な管理こそが、成年後見制度と家族信託の大きな違いの一つです。

知っておきたい成年後見制度のメリットと注意点(デメリット)

成年後見制度を利用して不動産を売却することは、ご本人にとって大きなメリットがある一方、いくつかの注意点も存在します。制度を正しく理解し、納得した上で利用を判断することが大切です。

メリット:財産が法的に保護され、安全に売却が進められる

成年後見制度を利用する最大のメリットは、ご本人の財産が法的にしっかりと保護されることです。

  • 契約無効のリスク回避:判断能力が不十分な状態での契約は無効ですが、後見人が代理することで法的に有効な売却が可能になります。
  • 適正な価格での売却:家庭裁判所の監督下で手続きが進むため、不当に安い価格で買い叩かれるといったリスクを防げます。
  • 財産の安全な管理:後見人が財産を管理し、裁判所に報告するため、ご家族による使い込みや、悪質な業者による詐欺被害などからご本人を守ることができます。

成年後見制度は、いわばご本人の財産を守るための「強力な盾」となるのです。

司法書士に相談し、安心した表情を浮かべる夫婦。成年後見制度について専門家から説明を受けている様子。

注意点:時間・費用がかかり、財産利用に制約が生じる

一方で、多くの方が懸念されるデメリットについても理解しておく必要があります。

  • 時間と費用:申立てから後見人が選任されるまでに数ヶ月、さらに不動産売却の許可を得て売却が完了するまでには、半年から1年以上かかることもあります。また、専門職後見人が選任された場合は、継続的に報酬(家庭裁判所が決める。月額2万円〜)が発生します。
  • 財産利用の制約:一度制度が始まると、原則として継続しますが、例外的に判断能力が回復するなどして後見開始の原因が消滅した場合には、家庭裁判所により後見開始の審判が取り消され、制度が終了することもあります。売却代金を含むすべての財産は家庭裁判所の監督下に置かれ、ご本人の利益になる目的(生活費、介護費、医療費など)以外には原則として使えません。例えば、相続税対策のみを目的とする生前贈与や、本人の生活・療養等と無関係な投資目的の取引などは、本人の利益との関係で認められにくい傾向があります。

これらの制約は、あくまで「ご本人の財産を守る」という制度の趣旨から生じるものです。柔軟な財産管理が難しくなる点は、成年後見制度か家族信託かを選ぶ際の重要な判断材料となります。

まだ間に合う!判断能力があるうちに検討したい「家族信託」

「成年後見制度は手続きが大変そうだし、財産の制約も厳しい…」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。もし、ご本人にまだ契約内容を理解できるだけの判断能力が残っているのであれば、「家族信託」という選択肢が有効な場合があります。

家族信託なら裁判所の許可を要しない形で売却手続きを進められる場合があります

家族信託とは、元気なうちに、ご自身の財産(不動産や預貯金など)の管理を、信頼できるご家族(例えば子)に託す契約です。この契約を結んでおけば、将来、親の判断能力が低下した後でも、財産を託された子(受託者)が、信託契約の内容に基づいて、家庭裁判所の許可を得ることなく不動産の売却や預金の引き出しを行うことができます。

成年後見制度に比べて、より柔軟かつ迅速に財産管理を進められるのが大きなメリットです。

家族信託の注意点と成年後見制度との使い分け

ただし、家族信託も万能ではありません。最も重要な注意点は、信託契約を結ぶ時点で、ご本人に明確な判断能力が必要であることです。判断能力が低下した後では、家族信託を利用することはできません。

また、家族信託はあくまで財産管理の仕組みです。介護施設の入所契約や要介護認定の申請といった「身上監護」に関する手続きは、信託された家族が行うことはできません。そのため、財産管理は「家族信託」、身上監護は「任意後見制度」といったように、複数の制度を組み合わせて備えることが、より万全な対策といえます。

ご家族の状況によって、どの制度が最適かは異なります。早めに専門家に相談し、それぞれのメリット・デメリットを比較検討することが重要です。

まとめ:最善の選択のために、今すぐ専門家へご相談ください

ご家族の判断能力が低下した状況での不動産売却は、タイミングと正しい知識が何よりも重要です。これまで見てきたように、ご本人の判断能力のレベルによって、選べる選択肢は大きく変わります。

  • 判断能力が十分なら:通常の売却や、将来に備えた家族信託・任意後見の検討を。
  • 判断能力が不十分なら:成年後見制度の利用が唯一の道となります。

成年後見制度は、時間や費用がかかり、財産利用に制約が生じるという側面もありますが、ご本人の財産を法的に保護し、安全に管理・活用するためには不可欠な制度です。不動産売却という目的がある場合、裁判所が専門職後見人を選ぶ可能性も念頭に置く必要があります。

「うちの場合はどうだろう?」「何から始めたらいい?」と迷われたら、自己判断で時間を無駄にしてしまう前に、ぜひ一度、私たち司法書士のような専門家にご相談ください。現状を丁寧にお伺いし、ご家族にとって最善の道筋をご提案いたします。早めの相談が、より多くの選択肢を残し、ご家族の未来を守ることに繋がります。

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