司法書士が作成する本人確認情報

【権利書が見つからない場合】

 「権利書が必要です。」とか「権利書を持ってきてください。」と不動産仲介業者や銀行担当者、司法書士から告げられる場面は不動産を売却するとか、住宅ローンの借り換えをするとか、不動産を贈与をするといった時です。ちなみに相続登記の場面で権利書が必要になることは通常はありません(一部例外あり)。

 その権利書が見つからない場合、不動産を売却するとか、住宅ローンの借り換えをするとか、不動産を贈与をするために司法書士が「本人確認情報」を作成し、登記申請手続きを進めることがあります。なお、ここで言う「権利書」は、権利証・登記済証・登記識別情報などと同じ意味としてお考えください。

 権利書を紛失してしまった場合、「紛失のため権利書が提出できない」旨を登記申請書に記載して法務局に登記申請すると法務局から本人宛に照会文書が届きます。これを「事前通知」といいます。この照会文書(事前通知)に対して、本人が「間違いありません」という内容の回答書を法務局に返送すれば登記手続きが進むのですが、ここまでで分かるように事前通知の場合は登記申請から回答書の返送までに日数がかかることになります。これだと本人が本当に回答書を法務局に返送かどうかというリスクを抱える状態が何日か続く場合があります。
たとえば

  • 本人から不動産を購入する買主は、売買代金の支払いをしてしまって良いのか?
  • 不動産を購入する買主に住宅ローンで資金を貸付ける予定の銀行は資金実行をして良いのか? などというリスクです。
    通常このようなリスクを了承して不動産取引等を進めることはありませんので不動産の売買取引や住宅ローン関係の取引が絡む登記申請手続きでは事前通知制度は利用されません。

そのような場合に利用されることが多いのが「本人確認情報制度」です。

【本人確認情報とは】

 本人確認情報制度とは、権利書をなくしてしまい法務局に提出することができない場合に、司法書士が権利書を提出すべき人について「本人確認情報」を提供することで法務局からの事前通知を省略してもらって登記申請をすることができる仕組みです。

【本人確認情報でいう「本人確認」の手続き】

 本人確認の手続きとしては、司法書士が権利書を紛失してしまった本人と直接面談をして、運転免許証等の公的証明書(種類等が法定されています。)の提示を受け、本人であることを確認します。その上で、本人が当該不動産の正当な権利者であることを確認するために様々に事項を聞き取ったり疎明資料の提供を受けます。
 本人との面談の結果、司法書士が本人確認・本人が正当な権利者であることを確認したことを明らかにしてまとめたものを「本人確認情報」として法務局に提出します。
 きちんとした本人確認情報を司法書士が提供していれば法務局は事前通知をせずに登記手続きを進めることができます。

 また本人の現在の住所が登記記録上の住所と異なっている場合は、「当該本人確認情報の内容により申請人が登記義務者であることが確実であると認められる場合」に法務局は事前通知を省略することができます。
 つまり、司法書士が提供する本人確認情報において、本人の現在の住所が登記記録上の住所と異なっているがその同一性等についても当該本人確認情報において確実であると認められない場合は、登記記録上の住所に宛てても事前通知を発出することになります。これは前住所通知と呼ばれています。前住所通知には、なりすましによる虚偽の登記申請を防ぐ意味があります。

 このように本人確認情報を司法書士が作成し、法務局に提供するにあたっては、本人との面談だけではなく司法書士が自ら行った本人確認作業をいかに「本人確認情報」というものに落とし込んでいくかが勝負になります。

【本人確認情報が提出できない場合】

 司法書士が権利書を紛失してしまった本人と直接面談をしても、本人確認に必要な書類を本人から提示してもらえなかったり、本人が正当な権利者であることを確認するに足る聞き取りができなかった場合は本人確認情報を作成することはできません。いい加減な本人確認・意思確認をして本人確認情報を作成・提供してしまうと次のような刑事責任を負うことになります。
 本人確認情報の作成は「権利書の代わりになるものを作ってくれること」と考えるのは依頼者の立場からすると間違いではないと思うのですが、その責任は司法書士にとっては大変重いものです。

【本人確認情報提供者の責任】

 司法書士が虚偽の本人確認情報を提供したときは、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(不動産登記法第160条)

 このように司法書士が本人確認情報を法務局に提出するということは、通常の登記申請手続きにおける本人確認よりもさらに慎重な作業が求められていてその責任も重大です。
「本人確認情報」作成のための費用も事案によって異なりますが高額になる場合もあるようです。権利書を紛失してしまうと、経済的な負担はもちろん、手続きも複雑になってきてしまいます。権利書の保管には十分注意していただきたいところです。
 また平成18年頃から従来の「権利書」に代わって「登記識別情報」というパスワード形式になっていますので「権利書」という紙媒体の管理ではない情報管理が大切になっています。

 

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