Archive for the ‘民事訴訟’ Category

NHKに対する受信料支払債務

2023-07-22
当事務所ではメール・電話での個別の法律相談は受け付けておりませんのでご了承ください。

当事務所は司法書士事務所のため、消滅時効援用の内容証明郵便作成「のみ」の業務は行っておりませんのでご了承ください。

NHK(日本放送協会)に対する受信料支払債務についてのご相談(特に時効について)を受けることがありますので基本的事項を整理してみます。

【NHKとの間の受信契約は義務なのか?】

放送法64条1項本文は次のように規定されています。

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

 この規定によれば、NHKとの間で受信契約を希望するしないにかかわらず、NHKを受信できるテレビを設置した人はすべてNHKとの契約締結をする義務があることになります。これは、憲法第29条の「財産権の保障」や民法でいう「契約自由の原則」に反するのではないか?という疑問も生じます。
 しかし最高裁判所の大法廷判決(平成29年12月6日)では、「(放送)法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の、日本放送協会の放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反しない。」として契約締結義務を肯定しました。

⇒NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した人は、NHKとの間で受信契約を締結する「義務」がある。

【受信契約の義務があるとして、NHKとの間の契約はいつ成立する?】

 NHKの放送を受信することのできる受信設備(テレビ等)を設置した人は受信契約の義務があるとして、それではNHKとの間の契約はいつ「成立」するのかが問題となります。
 これは、受信料の支払額がいくらになるのかにも影響する問題です。
本人はNHKとの間で契約をした覚えがないのに「契約が成立していました。未納分を払ってください。」ということでは困ります。

 この点についても最高裁判所の大法廷判決(平成29年12月6日)は、「日本放送協会からの上記契約の申込みに対して上記の者が承諾をしない場合には、日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって上記契約が成立する。」としています。
 つまり、自分から進んでNHKとの間で受信契約をしていない人に対しては、たとえ受信契約の義務があるとしてもそれだけで契約は成立せず、NHKがその人に対して裁判を提起し確定判決をとることではじめて受信契約が成立するということになります。
また受信契約をしていない人が契約締結義務を履行しないことが履行遅滞による損害賠償の対象になることもありません。

 ただしNHKが承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によってNHKとの間での受信契約が成立した場合、NHKが策定し受信契約の内容としている「放送受信規約」によって受信設備(テレビ)の設置の月からの受信料債権が発生するとされていますから、受信料支払義務はテレビ等を設置した月にさかのぼることになります。

 

【受信料支払債務についての消滅時効はいつから計算する?】

よくご相談をいただくのがこの点で主に「時効援用ができますか?」という内容ですが、
最高裁判所の大法廷判決(平成29年12月6日)は、「受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(上記契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は、上記契約成立時から進行する。」としています。

これまで見てきたことから分かるとおり、受信設備(テレビ)をいつ設置したかという点がポイントになるようです。
この他にも
・NHKの放送を受信することのできる受信設備(テレビ等)を設置した人は誰か?
・NHKの放送を受信することのできる受信設備とは何を指すのか?
などの事実認定も争われたりするようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特定商取引法ガイド

2022-07-28

消費者庁のサイト「特定商取引法ガイド」

特定商取引法は条文だけを見ても理解することが難しいという印象だったのですがこのサイトは情報が整理されていて大変分かりやすかったです。

 

 

賃借人の死亡と保証人の責任

2021-06-17

アパートの1室を借りていた人(賃借人)が契約途中で死亡してしまった場合、大家さんと賃借人との間の賃貸借契約の事後処理について相談を受けることがあります。

大家さんから相談を受ける場合は、保証人への請求方法についてや原状回復の負担についての相談があります。

死亡した賃借人の相続人(親御さんの場合もありますし、お子さんの場合もあります)から相談を受ける場合は、相続人としてどこまで対応しなければならないのか?や相続放棄についての相談もあります。

もちろん1つの賃貸借契約について大家さん、賃借人の相続人の双方から相談を受けることはできません(司法書士倫理第61条の業務を行い得ない事件)。

今回は賃借人が死亡した場合の保証人の責任の範囲について見てみます。

2020年4月1日に施行された改正民法第465条の4の規定です。

第465条の4(個人根保証契約の元本の確定事由)
第1項
次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
1 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
2 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
3 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
第2項
前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
1 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
2 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

民法第465条の4第1項第3号によれば、賃借人が死亡すると保証人の債務の元本が確定するとなっています。
つまり、賃借人死亡以後に賃貸借契約において何らかの債務が発生したとしても保証人はその債務について責任を負わないということになっています。なお改正民法によるこの取り扱いは、賃貸借契約が2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約について適用されることになっています。

このような改正がさなされたのは、保証人が個人である場合、どこまで保証人としての責任を負うことになるかがあいまいで不測の損害を被ることのないようにするためだとされています。ちなみに保証人が保証会社のような法人の場合は、この規定は適用されません。

この点、賃借人の死亡が室内での自殺によるものだった場合は事情が異なります。
以後賃貸ができなくなった等による損害についてどう考えるかが問題となります。この損害自体、賃借人の死亡以後に発生するものであり保証人は改正民法の規定により債務の元本確定後の債務として責任を負わないようにも思えます。
しかしこのような場合、以後大家さんが賃貸できなくなった等による損害は、賃借人の自殺という生前の行為によって発生したものなので死亡時点ではもう発生していた債務であると考えることになります。
つまり、賃借人の死亡が室内での自殺によるものだった場合は、以後賃貸ができなくなった等による損害について極度額の範囲内で責任を負うということになっています。

 

保証人のための情報提供義務(2020年4月1日改正民法施行)

2020-05-11

2020年4月1日施行の改正民法では、保証人を保護するための制度として情報提供義務の制度が新設されました。
自分が保証人になる前、保証人になった後、主債務者が支払いを遅滞した場合の3つの場面で債務の内容や主債務者の財産、収支の状況などをきちんと確認できるようにして保証人に不測の損害が発生しないようにするための制度です。


  1. 保証人になる前(民法第465条の10第1項)
  2. 保証人になった後(民法第458条の2)
  3. 主債務者が支払いを延滞した場合(民法第458条の3第1項)

    1.保証人になる前(民法第465条の10第1項)
    事業のために負担する債務について保証人になることを他人に依頼する場合の情報提供義務(民法第465条の10第1項)
    事業のために自分が負担する債務について、他人に保証人になること依頼する場合は、保証人になるかどうかの判断材料として
    ①自分(主債務者)の財産や収支の状況
    ②その債務以外に債務がある場合はその額、返済状況(きちんと返済できているか)
    の情報を提供する義務があるということになります。

    参照条文 民法第465条の10第1項
    (契約締結時の情報の提供義務)
    主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
    ① 財産及び収支の状況
    ② 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
    ③ 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

    2.保証人になった後(民法第458条の2)
    主たる債務者から委託を受けて保証人になった人は、「債権者に対して」、主たる債務について支払状況に関する情報提供を求めることができます。
    情報提供の請求を受けた債権者としては、「債務者の情報」を第三者である保証人に開示することになるので個人情報の第三者提供にあたることになりますが
    民法第458条の2は、個人情報保護法には抵触しないということになります。

    参照条文 民法第458条の2
    (主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
    保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

    3.主債務者が支払いを延滞した場合(民法第458条の3第1項)
    主たる債務者が分割払いの支払いを延滞したりして、分割払いの利益を喪失し残金一括請求の対象になった場合、債権者は2ヶ月以内に保証人に対して通知しなければならないことになっています。
    これは、主たる債務者が一括請求を受けると遅延損害金も多額になり、その分だけ保証人の負担も増加することから、保証人を保護するために早めに主たる債務者が経済的危機にあることを知らせる制度です。

    参照条文 民法第465条の3第1項
    (主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
    主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。

     

     


    ◆このように事業のために負担する債務を保証する人に対する保護規定が新設された訳ですが、民法でこのような規定を置かなければならないほど保証人への負担が問題になっているということでもあります。
    事情は人それぞれであり一概には言えませんが、保証人になる場合にはくれぐれも慎重な判断が必要です。


受信料支払債務の消滅時効

2020-03-20

当事務所ではメール・電話での個別の法律相談は受け付けておりませんのでご了承ください。

NHK(日本放送協会)に対する受信料支払債務の消滅時効の援用について触れたものとして平成29年12月6日の最高裁大法廷判決があります。

前提知識として放送法64条1項の規定を見ておきますと、
放送法64条1項
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(略)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

ここで条文上、「契約をしなければならない」となっている点に違和感があるかもしれません。
「契約自由の原則」という言葉を大学の一般教養で耳にしたことがあるかもしれませんがここではその例外として「契約が強制されている」わけです。

上記最高裁判決では、この放送法64条1項があるにも関わらず、契約に応じない人がいる場合
放送法64条1項は「契約の締結を強制する旨を定めた規定であり(略)承諾をしない場合には,日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって上記契約が成立する。」としています。
またこの規定が憲法違反ではないかとの主張に対しては、憲法に違反しないと判示しています。

これを前提にNHK(日本放送協会)と「契約を締結した者は(略)、同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する。」と判示しています。
契約が成立している以上、その契約にもとづいて受信料の支払義務も発生するという内容の判決です。

そしてこの受信料債権については、契約成立後に履行期が到来するものを除き契約成立時から消滅時効が進行する旨も判示しています。

受信料の支払義務についての時効期間は5年とされていますから(最高裁平成26年9月5日第二小法廷判決)、契約成立時から5年、または契約成立後に履行期が到来した受信料の支払債務についてはそこから5年経過すると消滅時効の援用の可能性が出てくるということになります。

消滅時効については、5年経過していても「時効の援用」をしないと時効の効力を主張できないことになっています(不確定効果説の停止条件説)から、消滅時効を主張したいと考えている方は5年の経過だけで安心しないで、必ず「時効の援用」をする必要があります。

時効の援用の具体的な方法としては、相手方に対し、「時効を援用します」という通知を出すことになりますが、後日、通知を「出した」・「出していない」などと争いになることを防止するために、時効援用通知は内容証明郵便で行うことが一般的です。

建物明渡請求事件の研修

2018-06-15

東京司法書士会の民事裁判実務研修を受講してきました。

私は千葉司法書士会の所属なので他会からの参加になります。

テーマは「建物明渡請求事件を中心とした簡裁訴訟手続」でした。

建物明渡請求事件は、当事者が死亡していたり、行方不明になっていたり、占有状態が入り組んでいたりと権利関係が複雑なケースがあります。

今回の講師の先生は元裁判所書記官ということもあり実務に沿ったとても分かりやすい内容でした。

詐欺による契約の取り消し

2017-07-27

民法第96条では

第1項で「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」

第2項で「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。」

第3項で「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。」

と規定されています。

「詐欺又は強迫」となっていますが今回は「詐欺」の部分について考えてみたいと思います。

「詐欺」という言葉は、いろいろな場面で、いろいろな意味合いで使われたり発せられたりすることがありますが、民法第96条で使用される「詐欺」は、一定の要件を充たせば特定の「意思表示を取り消すことができる」という効果が認められる、という意味での「詐欺」になります。

ですから「だまされたから契約を取り消したい」という場合でも、民法第96条第1項に定める「詐欺による意思表示の取り消し」に該当するかどうかについては、具体的に検討していく必要があります。

民法第96条に定める意思表示の取り消しが認められるための詐欺の要件は次の4つです。
1.詐欺をした者の故意
2.詐欺をした者の違法な欺罔行為
3.2.の欺罔行為に基づく表意者の錯誤
4.3.の錯誤に基づく特定の意思表示

損害賠償請求 平成17年7月14日 最高裁判所第一小法廷判決

2017-07-02

公立図書館に収蔵されていた自分の著作物が、独断的な評価や個人的な好みによって廃棄処分になっていた場合、著作者は損害賠償請求ができるかという事案について最高裁判所の判決があります。

公立図書館の職員である公務員が、閲覧に供されている図書の廃棄について、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというのが最高裁判所の判断です。

東京高等裁判所は、著作権又は著作者人格権等の侵害を伴う場合は格別として、著作者は何ら法的権利を有しないとして損害賠償請求を退けました。
しかし最高裁判所は、東京高等裁判所の判断を破棄し著作者からの損害賠償請求を認めました。

■最高裁判所が認めなかった東京高等裁判所の判断(東京高等裁判所 平成16年3月3日判決)
・著作者は、その著作物を図書館が購入することを法的に請求することができる地位にはない。
・著作者は、その著作物が図書館に購入された場合でも、当該図書館に対し,これを閲覧に供する方法について、著作権又は著作者人格権等の侵害を伴う場合は格別、それ以外には法律上何らかの具体的な請求ができる地位に立たない。
・したがって、図書館に収蔵され閲覧に供されている書籍の著作者は、その著作物が図書館に収蔵され閲覧に供されることにつき、何ら法的な権利利益を有しない。
・そうすると、本件廃棄によって権利利益が侵害されたことを前提とする主張は採用できない。

■最高裁判所の判断理由は大要以下のような論旨で損害賠償請求を認めました。
・公立図書館は、地方公共団体が設置した公の施設である。
・公立図書館は、住民に対して思想,意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができる。
・公立図書館の図書館職員は、公立図書館が上記のような役割を果たせるように、独断的な評価や個人的な好みにとらわれることなく、公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきである。
・公立図書館の図書館職員が、閲覧に供されている図書について独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは、図書館職員としての基本的な職務上の義務に反する。
・公立図書館が、住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは、そこで閲覧に供された図書の著作者にとって、その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもある。
・したがって、公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によって
その思想、意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なう。
・著作者の思想の自由・表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると、公立図書館において、その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は、法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当である。
・本件廃棄処分は、公立図書館職員が、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって行ったものであるから、本件廃棄処分により、著作者の人格的利益は違法に侵害された。

と展開しています。

 

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