遺言書を作成しなくてはいけない理由

2020年7月10日からスタートした法務局での自筆証書遺言保管制度のPRもあってか、当司法書士事務所にも遺言書を作りたいという人からのお問い合わせが増えています。

これまでは私が講師を務めたセミナーや講演会で遺言の話題が出ても

  • 遺言書なんて作らなくても相続はできるんだから良いよ
  • 遺言なんて縁起が悪い
  • まだまだ若いから後で良いよ
  • うちの家族は仲が良いんだから変に遺言なんて作るとトラブルの元だよ

などと言う方もいらっしゃいました。

しかし私が司法書士の補助者時代を含めて司法書士業務に携わるようになって28年以上(2022年時点)が経ちますが、個人的な実感として

  • 遺言書があってこのお客様は良かったなぁ
  • この人に宛てた遺言書があれば良かったのになぁ

という場面にも数え切れないくらい立ち会ってきました。いくつか事例をご紹介します。

 

【遺言書があって良かったケース】

1.前妻の間の子と連絡が取れないケース

遺言者はAさん。Aさんには離婚した妻との間に長男Bさんがいますが、離婚の際妻に引き取られて以降何十年も音信不通でどこで何をしているのかも分かっていませんでした。

Aさんは、離婚して数年後に現在の妻Cさんと再婚し、Cさんとの間には子供いません。

Aさんは、妻のCさんのために、「自分が亡くなった後の遺産をすべてCさんに相続させる。」という内容の公正証書遺言を作りました。

Aさんの死亡後、Aさんの遺産である自宅や預貯金口座の解約・名義変更は、Aさんの作った公正証書遺言によって、妻のCさんが単独で進めることができました。

もしAさんが妻Cさんのために公正証書遺言を作っていなかったとしたら、Aさんの法定相続人は妻のCさんと、音信不通の長男Bさんになりますから、Cさんは、Bさんを探して遺産分割協議をしなければならないところでした。

音信不通のCさんの所在を確かめるのには手間と時間もかかります。Cさんの所在が分かったとしてもBさんは電話番号も分かりません。手紙を出してBさんから返事があれば良いですが、返事がなければ家庭裁判所での遺産分割調停も考える必要もあります。手紙に対して回答があったとしても長男Bさんはどのような遺産の分配方法を希望しているのか、お金をいくら用意すれば良いのか等、交渉ごとが必要になるかもしれないところでした。

Cさんは、亡夫Aさんの思いやりに感謝していました。

 

【遺言書がなかったケース】

家族構成は、父Tさん、母Sさん、TさんとSさんの間には子供が二人いて長男Oさん、長女Mさんです。Sさんは認知症のため判断能力が低下しつつありました。Tさんは漠然とした将来の不安をかかえながらも相続対策などは具体的に考えていませんでした。

遺言書がなかったケース

 

Tさんが死亡したとき、Sさんの認知症はかなり進行していて、Tさん名義の相続手続きをしようとしてもTさんの遺産の内容や遺産分割協議の内容を理解することができる状態ではありませんでした。

子供のOさんとMさんは相続手続きについて司法書士に相談したところ、判断能力の低下したTさんのために成年後見人を選任してもらう必要があるという説明を受け、家庭裁判所にSさんのための後見開始申立て手続を行いました。

このような場合、成年後見人が選任されるまでには時間がかかりますし、誰がSさんの成年後見人に選任されるのかは家庭裁判所が最終的に決めることになります。また成年後見制度の下ではSさんの法定相続分を下回るような内容の遺産分割協議は原則として認められません。

このケースでは結局Sさんの成年後見人には家庭裁判所が選任した弁護士が就任し、その弁護士がSさんの預貯金通帳などをすべて預かることになりました。弁護士との交渉にも時間がかかりTさんの遺産の名義変更を完了させるのに10ヶ月以上もかかりました。

このケースの場合、Tさんが認知症対策を踏まえた公正証書遺言を作っていたら、Sさんの成年後見制度の利用の必要性は別として、相続手続き自体はスムーズに進めることができたかもしれません。Tさんがお元気な頃に司法書士の私が提案する立場だったら、認知症対策としての家族信託の利用をお勧めしていたと思います。家族信託についてはこちらのページをご覧ください。

この記事をご覧になっているあなたも、「もし自分が亡くなったら遺された家族が困ることがないか?」をじっくり考えて遺言書を作った方が良いかどうか検討してみてはいかがでしょうか。

 

【遺言書に遺すことができる事項は決まっている】

遺言書で定めることができるのは、以下のような事項です。

  • 相続分の指定、第三者への指定の委託(民法第902条)
  • 遺産の分割方法の指定、第三者への指定の委託、遺産分割の禁止(民法第908条)
  • 推定相続人の廃除、廃除の取消し(民法第893条、第894条第2項)
  • 遺贈(民法第964条)
  • 生命保険の保険金受取人の変更
  • 信託の設定(信託法第3条第2項)
  • 認知(民法第781条第2項)
  • 未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法第839条第1項、第848条)
  • 遺言執行に関する事項
  • 遺言執行者の指定、第三者への指定の委託(民法第1006条第1項)
  • 特別受益の持戻しの免除(民法第903条第3項)
  • 祭祀主宰者の指定(民法第897条第1項)

 

【遺言書には付言事項を追加できる】

遺言書には、決められた事項以外に「付言事項」として遺言書のメッセージを加えることもできます。「付言」なので遺言書の本体部分ではありませんし法的な拘束力もありませんが、「どうしてこのような遺言書を書くに至ったのか」とか、「遺された家族に託したい気持ち」などを書き加えることで、遺言書の内容に従って欲しいとか、遺言書がもとで家族間にトラブルが起きることがないようにして欲しいという気持ちを伝えるのに役立つとされています。

※ 遺言書(公正証書遺言・自筆証書遺言)の作成サポートについてのご相談・お見積もりは無料です。お気軽にお問い合わせください。

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