知っておくべき遺言書の種類②

遺言書には、大きく分けて普通方式と特別方式があり、その2つがさらに細かく分かれています。

 

1.普通方式の遺言

  1. 自筆証書遺言
  2. 公正証書遺言
  3. 秘密証書遺言

 

2.特別方式の遺言

  1. 危急時遺言
  2. 隔絶地遺言

 

【自筆証書遺言について】

自筆証書遺言とは、文字どおり自筆で遺言書を書いておくというものです。

つまり手書きの遺言書であっても、遺言書の内容が適法・適正なものであり、住所・氏名・作成日付がきちんと自署されており、押印されていれば法的効力として何の問題ありません。

ただし自筆証書遺言の場合、遺言者本人が死亡後、遺言書を発見した人や遺言書を保管していた人は、家庭裁判所に「検認の申立」をしなければなりません。

また家庭裁判所で検認をしたからといって、その遺言書が法的に有効なものであると認められたわけではないことにも注意が必要です。

司法書士として私はこれまでいくつもの検認済みの自筆証書遺言を目にしてきましたが、残念ながらそのうちのいくつかの自筆証書遺言については、法的に有効な自筆証書遺言として取り扱うことができなかったものもありました。

 

【有効な自筆証書遺言として認められない例】

自署していない遺言書

全文ワープロで作成したものや、ICレコーダーやUSBメモリで保存した音声ファイル、他人が代筆したものなどは有効な遺言書として扱うことができません。

自署に対する例外として遺産目録については自署しなくても良いとされています。具体的には遺産目録をワープロで作成したり、不動産の登記簿謄本を別紙目録として添付し、その全てのページに署名捺印することで自筆証書遺言の一部にできることになっています。

 

参考 民法第968条

第1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

第2項 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

第3項 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

 

【有効な自筆証書遺言として認められない例】

内容が不明瞭な遺言書

せっかく自筆証書遺言を遺そうと一生懸命遺言書を書いても、法律的にその趣旨が伝わらないような表現では意味がありません。

遺言書に記載することによって遺言としての法的効力が生じる事項は、民法等によって限定されています(法定遺言事項)。

主なものとしては

  • 相続分の指定(民法902条)
  • 祭祀承継者の指定(民法897条1項ただし書)
  • 遺言執行者の指定(民法1006条1項)
  • 遺産分割方法の指定・指定の委託(民法908条)
  • 特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
  • 遺贈(民法964条)
  • 生命保険受取人の変更(保険法44条1項)
  • 認知(民法781条2項)
  • 推定相続人の廃除(民法893条等)

などがあります。

これらをどのように表現して法的効力が生じる自筆証書遺言を作るかは、自筆証書遺言を作成する方に任されるわけですが、なかなか難しい作業であることは想像できるかと思います。

 

【有効な自筆証書遺言として認められない例】

作成日付があいまいな遺言書

「令和2年8月吉日」、「令和2年8月」のような記載等では、特定の日を表示したものとはいえないので法的に有効な自筆証書遺言として扱うことができません。

※作成日付としては「令和2年9月12日」のような特定の日を記載するのが通常ですが、「令和2年9月末日」のような「暦上の特定の日を表示するもの」として自然かつ合理的に解釈できるときは、日付の記載を欠くものとはいえないとされています(参考 東京地方裁判所平成6年6月28日判決)。

 

【自筆証書遺言の保管制度について】

2020年7月10日から法務局による自筆証書遺言の保管制度がスタートしました。

これは自筆証書による遺言の有効利用を図るため、自筆証書遺言を法務局で事前にチェックをし、その原本を保管してくれるという制度です(手数料は3900円)。

この制度のメリットは自筆証書遺言で必要とされていた家庭裁判所による検認手続きが必要ないという点と法務局で保管してくれるので紛失・改変の恐れがないということが挙げられています。

法務局の解説ページ

 

【公正証書遺言について】

公正証書遺言は、証人2人を立ち会わせて公証人が遺言者から遺言内容を直接聴き取って筆記し、証書にして作成する遺言です。作成した遺言書原本は公証役場で保管されます。遺言者本人には正本、謄本という形式で公正証書遺言が交付されます。

 

【遺言を公正証書遺言にしておくメリット】

  • 公証人の下で作成され、証人2名が立ち会うため法的有効性に疑義が生じる可能性が少ない
  • 遺言書の原本が公証役場で保管されるので万一遺言者が謄本を紛失してしまっても、公証役場で謄本の再交付を受けることができる。

 

【公正証書遺言にする時の注意点】

  • 公証役場では「どのような内容の遺言にしたら良いか?」とか、「誰に相続させたら良いか?」などという相談には応じてもらえませんので、遺言の内容についてはある程度自分で決めてから手続きの依頼をする必要があります。
    せっかく公正証書遺言を作ってから「やっぱり変更したい」とか「税金面で問題が出そう」といった理由で作り直すこともできますがその都度作成費用がかかります。
    遺言書の内容のご相談、公証役場とのやりとりに不安があるという方は、当事務所の「遺言書作成サポート」をご利用ください。ご相談は無料ですのでお気軽にお問い合わせください。

 

【公正証書遺言作成のために公証人に支払う費用】

目的財産の価格

手数料の額

100万円まで

5,000円

200万円まで

7,000円

500万円まで

11,000円

1000万円まで

17,000円

3000万円まで

23,000円

5000万円まで

29,000円

1億円まで

43,000円

1億円を超える部分については

1億円を超え3億円まで5000万円毎に1万3000円加算

◆財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出

◆遺言加算-全体の財産が1億円以下のときは、上記表によって算出された手数料額に、1万1000円が加算

◆原本についてはその枚数が3枚を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の手数料

◆遺言者が病気又は高齢等のために公証役場に赴くことができず、公証人が、病院、自宅、老人ホーム等に赴いて公正証書を作成する場合には、上記表の手数料が50%加算され、公証人の日当と現地までの交通費も加算

 

【秘密証書遺言とは】

秘密証書遺言は、自分で用意した遺言書を公正役場に持参し、遺言書の「存在」を証明してもらう遺言です。証人2名の立会が必要となります。「秘密」というくらいですから公証人にも証人2名にも遺言の内容は開示しません。その日に遺言書が「存在する」という事実を確認してもらうための遺言です(民法第970条以下)。

 

【秘密証書遺言のメリット】

秘密証書遺言は遺言書を作成した自分以外に誰もその内容を確認しませんので遺言の内容を第三者に知られる可能性は他の方式に比べて低くなります。

作成方法は署名と押印以外は自筆証書遺言のように自署が求められているわけではないので他人の代筆、全文ワープロで作成しても有効とされています。

 

【秘密証書遺言のデメリット】

秘密証書遺言は遺言書を作成した自分以外に誰もその内容を確認しないということは、仮にその遺言書の内容に方式の不備や法的に間違った内容が記載されていたとしても、証書作成時に修正ができないということになります。

また遺言書自体、公証役場では保管されませんから自筆証書遺言と同様に保管の問題が生じます。紛失・盗難・毀損などに十分注意する必要がありますし、そもそもその遺言書が存在すること自体を遺言者の死後、しかるべき人に認識してもらう必要がありますので最悪の場合、秘密証書遺言があることを見過ごして遺産分割協議がなされてしまう恐れもあることにも注意が必要です。

 

【秘密証書遺言作成のために公証人に支払う費用】

11,000円(遺言書の内容に関わりなく定額)

 

【危急時遺言~一般危急時遺言】

病気などの理由で死亡の危急に迫った人が遺言をしたいと希望する場合、公証人の手配をする時間もないような場合、証人3人以上の立会いのもとに、証人の一人に遺言の趣旨を口頭で伝える方法で遺言をすることができます。これが危急時遺言遺言です(民法第976条。

危急時遺言では、遺言趣旨を伝えられた証人が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、他の2人の証人がその筆記内容が正確なことを承認し署名捺印をすることになります。

危急時遺言は、遺言書作成日から20日以内に家庭裁判所に対して確認請求をしないと失効してしまいますので注意が必要です。また家庭裁判所としてはその遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ確認できないことになっている(民法第976条第5項)のでここでいう「確認」とは、単に遺言書があるという「確認」ではないことにも注意が必要です。

また遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになったときから6ヶ月間生存したときは、一般危急時遺言は無効になります(民法第983条)。

 

【危急時遺言~船舶遭難者遺言】

船舶遭難者遺言(難船危急時遺言)は、船舶遭難の事態における遺言です(民法第979条)。

船舶遭難中の船内で証人2人以上の前で、口頭(口がきけない人の場合は通訳人の通訳)で証人に対し遺言の趣旨を伝え、証人はこれを筆記して、署名押印をします。

筆記については、遭難が止んだ後、証人が記憶に従って遺言の趣旨を筆記し、これに署名・押印しても良いことになっています。

 船舶遭難者遺言も、作成後遅滞なく家庭裁判所に対して確認請求をしないと失効してしまいますので注意が必要です。

 また遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになったときから6ヶ月間生存したときは、船舶遭難者遺言は無効になります(民法第983条)。あくまで応急措置としての遺言なので普通方式での遺言が可能になっている場合にまでこれを認める必要はないとされています。

 

【伝染病隔離者の遺言】

伝染病隔離者の遺言は、伝染病による隔離治療中で、死は迫っていないものの自由に行動をすることができない状況で行う遺言です(民法第977条)。

遺言者は、警察官1人と証人1人以上の立会のもと、遺言者本人が遺言書を作成します。立会をした警察官と証人も署名・押印をします。

また遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになったときから6ヶ月間生存したときは、一般隔絶地遺言は無効になります(民法第983条)。

 

【在船者の遺言】

在船者の遺言は、死が迫っているわけではない人が、船内で行う遺言です(民法第978条)。

遺言者は、船長または事務員1人と証人2人以上の立会のもと、遺言者本人が遺言書を作成します。立会をした船長または事務員と証人も署名・押印をします。

また遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになったときから6ヶ月間生存したときは、在船者遺言は無効になります(民法第983条)。

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