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信託財産としての株式を事業承継対策に利用する

2017-11-12

信託というと、金銭や不動産を対象として思い浮かべることが多いですが、株式も信託財産として設定することができます。

家族経営の中小企業や、起業をして1人株主で設立した会社経営者にとって、自社株式を信託することで、円滑な事業承継を進めることが可能になります。

ここでいう円滑な事業承継とは、現在の経営体制を維持していくということを想定していますので、家族内で話し合って「今後、会社経営をしていくのは、○○にしよう」というという合意ができていることが前提となります。

家族経営のような中小企業の場合、会社法以前の商法にもとづいて株式会社を設立していると、発起人(創業者メンバーとしての出資者=株主)が7名以上存在していることも多いですが、その株主たちが高齢になり、会社の意思決定をおこなう株主として議決権を行使することが難しくなるとか、亡くなって相続が発生すると株主としての地位が複数の相続人に分散してしまうことがあります。

相続によって株主としての地位が複数の相続人に移ったとしても、家族内なのだから問題ないじゃないかという考え方もありますが、相続によって配偶者やその子どもたちに株主としての地位が承継されたとしても、当の本人らは会社経営に興味がないことも多く、経済的価値(=配当金や株式の価値)のみに関心があるか、そもそもそういったことに一切関心がないこともあります。

ただ会社を経営している執行部(役員)としては、そのような人物が、もし会社の意思決定に必要な議決権の過半数を占めるような事態になったら、いつ会社の経営方針が180度転換してしまうかも分からず、安定した経営基盤を維持することはできなくなってしまいます。

具体的には、会社の重要な財産を処分するとか、金融機関等から資金調達をするとか、新役員を迎え入れるとかに際して、株主総会で承認決議を得ようとしても、スムーズにことが進まない恐れもでてくる訳です。

株主が死亡した場合に備えて、会社の定款で、株主が死亡した場合、会社は株主の相続人に対して株式売渡請求ができる旨を定めてあれば、会社経営に関与していなかった人物が株主になることを防止することができます(会社法第174条)。

ただし会社はその株主に相続があったことを知った日から1年以内に請求をしなければなりません(会社法第176条1項)し、株式の売買価格について協議が必要だとか、協議が整わない場合は、20日以内に裁判所に価格決定の申立をしなければならないとか、協議を経ずに裁判所に価格決定の申立をするケースもありますので迅速な対応が必要となってきます(会社法第177条)。

もし創業者メンバーが7名いたとして各々について相続が発生したとしたら、その都度このような対応をしていく必要があり、とても煩雑だけではなく対応に苦慮する可能性もあります。

ここで選択肢の1つとして登場するのが株式の信託です。

たとえば現時点で存在している株主どうしで話し合いをして合意形成をし、現在の株主7名を各々委託者兼受益者、現在のオーナー社長の後継者を受託者とする信託契約をする方法があります。

株式の信託によって受託者は、会社の全議決権を行使できるようになりますから、会社の意思決定に不安要素はなくなります。

もし信託契約締結時に存在していた株主が死亡した場合は、信託契約に定めた受益者変更手続きによって、その株主の相続人が新たな受益者になるとか、その受益権を会社が買い取るとか信託契約の定め方にもよりますが、少なくとも会社の経営基盤が危うくなるような事態にはならないようにすることができます。

現在のオーナー社長が亡くなった場合は、その時点での委託者の状況にもよりますが、信託は終了すると定めておくか、受託者が交替するように定めて信託を継続していくことも可能です。

 

 

 

遺産分割調停が不成立に終わった場合

2017-11-10

遺産分割調停が不成立に終わった場合、その事件は遺産分割審判に自動的に移行されます(家事事件手続法272条第4項)。

ちなみに離婚調停の場合は審判に自動的に移行されないので離婚請求訴訟を提起する必要があります。

家事事件手続法
(調停の不成立の場合の事件の終了)
第272条第1項

調停委員会は、当事者間に合意(第277条第1項第1号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第284条第1項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。

第4項

第1項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。

遺産分割の調停期日に出頭できないとき

2017-11-10

調停の当事者が遠隔地に居住している場合等で、調停の場所に出席することができない場合でも、事前に調停委員会や裁判官から提示された調停条項案を受諾すれば、調停の合意が成立したものとみなすという規定があります(家事事件手続法第270条)。ただし、離婚・離縁についての調停事件については、この規定は適用されません。

家事事件手続法第270条

(調停条項案の書面による受諾)

1 当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会(裁判官のみで家事調停の手続を行う場合にあっては、その裁判官。次条及び第二百七十二条第一項において同じ。)から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が家事調停の手続の期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは、当事者間に合意が成立したものとみなす。

2 前項の規定は、離婚又は離縁についての調停事件については、適用しない。

条文上の規定では「遠隔の地に居住していること」とありますが、つづけて「その他の事由により」とあります。具体的には、長期の病気や身体障碍、高齢によるものなどが含まれます。

寄与分の主張

2017-11-09

遺産分割協議の中で相続人から寄与分の主張がなされることがあります。

民法では、相続人のなかに長期にわたって献身的に亡くなった被相続人の療養看護等で支えてきた人で特に相続財産の維持や増加に貢献したような人に「寄与分」を認めることによって、各相続人間の公平を図ろうとしています。

民法第904条の2には次のような規定があります。
1.共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2.前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

3.寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

4.第二項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。

民法第904条の2の規定を受けて、寄与分が認められるための要件としては
1.寄与行為の存在
2.寄与行為が「特別の寄与」と評価できること
3.被相続人の財産の維持または増加があること
4.寄与行為と被相続人の財産の維持と増加との間に因果関係があると評価できること
が挙げられています。

なので遺産分割協議のなかで「私は亡くなった母のために尽くした」と主張しても「特別の寄与」と認められる場合もありますし、「特別の寄与」と認められない場合もあるということになります。

民法第904条の2の規定を受けて、寄与行為の類型を整理してみると
1.家事従事による寄与行為
2.金銭等の財産給付による寄与行為
3.その他の方法(扶養)による寄与行為
4.療養看護による寄付行為
5.財産管理による寄付行為
6.上記5類型の複合による寄付行為
といったものになります。

これらの寄付行為について、「特別の寄与」と評価できるか、被相続人の財産の維持または増加があったのか、その因果関係があると言えるのかを検討してはじめて寄与分の有無が判断されることになります。

受託者と受益者の関係

2017-11-09

信託法8条は、(受託者の利益享受の禁止)として「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。」と規定しています。

ここで「受益者として信託の利益を享受する場合を除き」とありますから、受託者は受益者を兼ねることができることを前提としています。

また「何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない」とありますから、受託者本人以外の名義を借りて受託者が実質的に信託の利益を受けることを禁止しています。

たとえば、受託者本人が受益権を得られるように自分の親族名義で受益権(信託の報酬は除く)を取得するような内容の信託を設定することはできません。

信託の設定を検討する場合は、委託者の意思を尊重することは当然ですが、受託者の意思も確認した上で手続きを進めていく必要があります。

 

遺留分減殺請求

2017-11-08

遺言信託がなされている場合、遺留分減殺請求との関係が問題になります。

遺留分権利者がいて遺言信託を設定する際には、想定される遺留分減殺請求についても配慮しておく必要があり、慎重に信託の内容を検討する必要があります。

なぜかというと、遺留分権利者が遺留分減殺請求をした場合、その対象、相手方をどう考えるかによってせっかく設定した信託行為そのものを消滅させてしまうことにもなりかねないという指摘もあるからです。

そこで、遺留分権利者がいる場合の遺言信託の内容としては、遺留分権利者に遺留分相当額の財産を相続させるよう設定しておくとか、遺留分権利者も受益者の1人として遺言信託を設定しておくとか、価額弁償の方法を定めておくとか事情に応じた対策も考えられています。

■遺留分権利者は、何に対して遺留分減殺請求をすれば良いのか。遺留分減殺請求の対象は何かという問題と、誰に対して遺留分減殺請求をすればよいのかという問題があります。

■遺留分減殺請求の対象については、信託されて財産に対して遺留分減殺請求をすると考えるか、受益者に対して付与された受益権に対して遺留分減殺請求をすると考えるかになりますが、受益者に対して付与された受益権に対して遺留分減殺請求をするのが正しいと考えられているようです。

■誰に対して遺留分減殺請求をするのかについては、信託によって保護しようとする受益者の利益を考慮すると、信託そのものを消滅させるような遺留分減殺請求を認めるべきではなく、価格弁償によって遺留分権利者の利益を図る方法もあるということで受益者に対して請求すべきということになるようです。

このように遺言信託を設定する場合は、遺留分減殺請求を踏まえて内容を検討していくく必要があり、安易にひな形等を採用して信託を設定すると後々トラブルに巻き込まれる恐れもあります。

農地の時効取得

2017-11-08

農地を時効取得する場合、農地法の許可は不要です。
以下、最高裁判所第一小法廷昭和50年9月25日判決の判示です。

時効による農地所有権の取得については、農地法3条の適用はない。
「農地法3条による都道府県知事等の許可の対象となるのは、農地等につき新たに所有権を移転し、又は使用収益を目的とする権利を設定若しくは移転する行為に限られ、時効による所有権の取得は、いわゆる原始取得であつて、新たに所有権を移転する行為ではないから、右許可を受けなければならない行為にあたらないものと解すべきである。時効により所有権を取得した者がいわゆる不在地主である等の理由により、後にその農地が国によつて買収されることがあるとしても、そのために時効取得が許されないと解すべきいわれはない。」

つまり農地法の許可が必要な所有権移転というのは、新たに所有権を移転する行為を指すので、時効取得のような原始取得はこれにあたらないということです。

 

 

代償分割を利用した遺産分割協議

2017-11-06

故人の名義のマンションについて相続人A・B間の遺産分割協議の中で、相続人Aがそのマンションの名義を取得することになったけれど、そうするとAの相続分が、Bの相続分に比べてバランスが取れない(多すぎる)というケースがあります。

その分、Bには故人の預貯金を相続してもらえば良いのでしょうが、見合うだけの預貯金が遺されていない場合もあります。

ではこの場合、マンションの登記名義をA・B2名の共有にすれば良いという考え方もありますが、相続登記の名義を共有にしてしまうと、後々いざマンションを処分(売却)しようという段階になった場合、売主としてA・B双方がともに行動しなければならず、媒介契約、売買契約、残金決済等なにかと手間と時間がかかる場面で日程調整も含め苦労することが多くあります。

また相続登記を共有名義にしておくと、売る売らないの判断も独断で進めることができません。さらには、A・Bのうちどちらかが亡くなってしまい、さらに相続登記がされることになり、親戚とはいえ普段から交流のない者同士がマンションの共有名義となってしまうと、処分するのにもさらに苦労するかもしれません。

このような事態にならないようにマンションの名義はAさんのみとし、Bさんの相続分として、Aさん固有の財産(不動産でも金銭等でも可)をBさんに移転することを合意するという遺産分割協議の方法もあります。これを代償分割と呼んでいます。

相続税法基本通達19の2-8では、代償分割のことを「共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割」と定義しています。

また家庭裁判所で行われている遺産分割調停でも、家事事件手続法第195条で債務を負担させる方法による遺産の分割として、「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。」と規定しており、代償分割の運用がなされています。

実際に、Aがもともと所有していた不動産をBに移転する内容の遺産分割協議が成立した場合には、「遺産分割による贈与」や「遺産分割による売買」などという登記原因でAからBに所有権移転登記をすることができます。

 

特別養子の相続権

2017-11-05

特別養子とは、子どもの福祉のための養子縁組制度です。いろいろな事情によって実父・実母が養育できない場合、その子が家庭で養育を受けられるようにすることを目的としています。

特別養子縁組ができるのは、子どもの年齢が6歳になるまでです。ただし、6歳未満から事実上養育していたと認められた場合は8歳未満まで特別養子縁組が可能となっています。

特別養子が成立すると、特別養子になった子と、実父・実母との間の親族関係は終了することになります(民法第817条の9)。ただし婚姻障害事由(近親婚の禁止)は残ります。

よって特別養子となった子と実父・実母との間の相続関係は生じません。司法書士が相続登記の手続きをする場合、注意が必要な点です。

ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出子を特別養子とする場合は、実父・実母やその血族との親族関係は終了しません(民法第817条の9ただし書)。

抵当権抹消書類をそのままにしていた

2017-11-05

住宅ローンを完済して、銀行や取り扱いの会社から書類が送られてきたけど中味を確認しないままそのままにしていた。

先日書類の中味を確認したところ抵当権抹消登記をするようにとのことで抹消登記申請に必要な書類が入っていた。

しかも、書類には3ヶ月の有効期限があるとのことで、当然その期限は過ぎてしまっている。どうしたら良いか。というお問い合わせを頂くことがあります。

「3ヶ月の有効期限がある書類」というのは、抵当権者である金融機関等の代表者事項証明書のことを指していると思われます。

この代表者事項証明書自体は、法務局で誰でも(その金融機関以外の人でも)取得することができますので、有効期限である3ヶ月以内のものは追完可能です。またそもそも会社法人等番号を提供すれば代表者事項証明書の添付は省略できます。

ただし、住宅ローン完済当時の抵当権者(ほとんどの場合、会社)の代表者が、現在の代表者と違っている場合もあります。

その場合、送られてきた抵当権抹消書類のなかに入っている登記申請用の委任状には、住宅ローン完済当時の抵当権者の代表者が委任者として記載されているため、現在の代表者事項証明書に記載されている代表者と不一致となってしまいます。

もし会社法人等番号を提供しても住宅ローン完済当時の抵当権者の代表者の資格を証明することができないような場合は、登記事項証明書を添付する必要があります(平成27年10月23日民二第512号)。

このような場合、住宅ローン完済当時に抵当権者の代表者の代理権(当該登記申請に関するもの)は、代表者の退任をしても消滅しないことになっています(不動産登記法第17条)。

よって冒頭のお問い合わせに対する回答としては、当時の書類を利用することは可能ということになります。

ただ、実際には現在の抵当権者の代表者が誰なのかを確認する必要がありますし、場合によっては登記事項証明書を取得する必要もあります。抵当権者である相手方に問い合わせをして登記事項証明書の再発行をお願いすると先方で手配してくれるケースもありますが有料となることもあるようです。

また、司法書士が抵当権抹消登記の申請を代理する場合は、本人確認手続きが必要ですので、抵当権者に問い合わせをすることになり、結果として抵当権抹消書類の再発行手続きしてもらい、現在の代表者の名前で委任状や抵当権解除証書を再発行してもらうことも多くあります。

 

 

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