自筆証書遺言と遺言執行者

主に相続登記の場面で自筆証書遺言を目にすることがありますが、有効な遺言書として取り扱えるかどうか微妙なものが存在します。

よくあるのは
・民法で定める方式に従っているか判別が難しいもの

・「誰に」、「何を」が一見してわかりにくいもの

です。

それとは別に「遺言執行者の定め」がない自筆証書遺言もあります。

そもそも遺言書自体に「遺言執行者の定め」がなくても問題なく遺言内容が実現できる場合もありますので「遺言執行者の定め」がない自筆証書遺言でも、それ自体無効になるわけではありません。

民法第1015条で、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定されているように
遺言執行者は相続人の代理人ですから、遺言執行者がいない場合は、相続人全員が協力すれば問題ないようにも考えられます。

ただし遺言執行者がいないと困る場合もいくつかあります。

■遺言執行者がいないと困る場合~遺言による推定相続人の廃除
民法893条では
「被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。
この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
と規定されていますから、遺言書に推定相続人の廃除の記載がある場合は、必ず遺言執行者の存在が必要となります。

遺言による推定相続人の廃除の記載例としては次のようなものがあります。
「長女○○子は、私に対し・・・・など重大な権利侵害および精神的苦痛を与えた。よって本遺言の効力発生をもって相続人から廃除する。」

実際に相続人の廃除が認められるかどうかは、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立てをして、家庭裁判所の判断を仰ぐ形になります。

■遺言執行者がいないと困る場合~遺言による認知
民法781条では
第1項で「認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。」
第2項で「認知は、遺言によっても、することができる。」と規定されています。

これを受けて戸籍法64条では
「遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その就職の日から十日以内に、認知に関する遺言の謄本を添附して、第六十条又は第六十一条の規定に従つて、その届出をしなければならない。
と規定されていますから、遺言書に認知の記載がある場合は、必ず遺言執行者の存在が必要となります。

遺言による認知の記載例は次のようなものがあります。
「本籍 千葉県・・市 A子の子B(令和○年○月○日生)は、遺言者の子である本遺言をもって認知する。」

■遺言執行者がいないと困る場合~共同相続人が協力してくれない場合
遺言執行者がいなくても、遺言書の内容がたとえば
「千葉県柏市・・番の土地は○○に相続させる。」という特定の不動産を特定の相続人に「相続させる遺言」であれば、遺言執行者の存在は不要でその指定を受けた相続人が単独で名義変更手続き(相続登記申請)をすることができます。

ただし、銀行等の金融機関では
「遺言執行者による請求以外は、原則、相続される方全員の印鑑登録証明書が必要」
とする扱いのところがあります。

つまり遺言執行者の定めのない自筆証書遺言のままでは、たとえ遺言書に「△△銀行○○支店の預金口座はAに相続させる。」と記載されていても事実上Aさんのみでは解約手続きができないという対応になってしまっているということです。

このためAさんとしては、他の共同相続人の協力を得て署名・捺印・印鑑証明書の取り付け等を行う必要がありますが他の共同相続人の一人でも手続きに協力してくれなければ銀行口座の解約手続きができないということになってしまいます。

結論-司法書士である私の立場からは、
・遺言は公正証書で作成しておく
・どうしても自筆証書遺言にしておきたいという場合は、専門家のアドバイス受けて作成する
ということをお勧めします。

ちなみに
自筆証書遺言は、遺言者の死後、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
この「検認」では、家庭裁判所から遺言者の法定相続人全員に通知が出され彼らは遺言の存在と内容を知ることができます。
家庭裁判所における「検認」期日では、自筆証書遺言の形状・加除訂正の状態・日付・署名などを列席者全員で確認します。
これは、後日遺言書が偽造されたり変造されたりすることを防止するためでもあります。
ただし家庭裁判所は、自筆証書遺言の有効・無効を判断することはありません。
つまり本人の筆跡による遺言なのかを裁判所が判断したりするものではないし、相続人が自筆証書遺言の内容について了承する遺産分割協議に代わるものでもありません。

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