相続人に連絡が取れない人がいる場合-1

相続登記をしようとしても、法定相続人のなかに連絡が取れない人(または行方不明の人)がいて手続きが進まない場合があります。

法定相続人といえば普通は兄弟姉妹だから連絡が取れない訳がないんじゃないの?と考える方もいるかもしれませんが、司法書士として相続登記実務に関わっていると、「そうでもない」ことが結構あります。司法書士の仕事を始める前までは「行方不明」という言葉も新聞やニュースでしか耳目にしたことがありませんでしたが実際に行方不明の人がいることを前提に仕事をすることが結構な頻度であるのです。

連絡の取れない法定相続人がいるケースとしては
◊兄弟姉妹間で長年音信不通になっている場合や
◊兄弟姉妹のなかに親よりも先に亡くなった人がいてその子供(おい・めい)に相続権がある(いわゆる代襲相続が発生している)が、疎遠になっている場合
などがあります。

また「音信不通」といってもいろいろあります。
♦今回の相続登記をきっかけに相続人の住所までは確認できたが電話番号が分からない場合や
♦調べてはみたけれど相続人の住所も分からなかった場合
があります。

相続人の「住所が分からない場合」なんてあるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「住民登録が消されてしまっている人」も実際にいるのです。
「職権消除」という手続きで住民票が登録されている役所から「居住の実態がない」と判断されると住民登録が抹消されます。
その結果、「住所が分からない=住所不定」という状態になってしまうわけです。
こうなると共同相続人どうしで話し合いをして遺産分割協議をするということは不可能になります。

民法ではこのような事態に対応するための制度として「不在者財産管理人」という制度を用意しています。

参考 民法第25条(不在者の財産の管理)
第1項 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
第2項 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

実際に不在者財産管理人が選任されるためには、いろいろな要件がありますが、ここでいう「不在者」を「住所が分からない相続人」に置き換えてイメージしてみるとわかりやすいかと思います。
「住所が分からない相続人」に代わってこの不在者財産管理人を相手に相続手続きを進めていくことができる場合があります。

ここで相続手続きを進めていくことができる「場合があります」としたのは、不在者財産管理人が選任されたからといっても、ただちに遺産分割協議が進むという訳ではないからです。

不在者財産管理人に行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加してもらうためには、さらに家庭裁判所から「権限外行為の許可」をもらう必要があります。

不在者財産管理人は、基本的に行方不明となっている相続人のためにその財産を管理(維持)するだけですから積極的に財産を処分したり、遺産分割協議をしたりする行為をすることはできないことになっています。

また遺産分割協議の内容についても、「行方不明だから財産は取得させなくて良いよね!!」などということは許されません。
遺産分割協議の中できちんと行方不明になっている相続人の法定相続分の遺産は確保してあげて、その人が後日戻ってきたときのために不在者財産管理人は遺産を管理しておく必要があるわけです。

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