Archive for the ‘不動産登記’ Category
法務局で遺言書を保管してくれる法律が成立
平成30年7月6日に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し(平成30年法律第73号)7月13日に公布されました。
高齢化による相続トラブルを防止するためにできた制度ということで、自筆証書遺言を作成した本人が法務局に自筆証書遺言書を保管する申請をすることになります。
法務局では「遺言書保管官」という役職の人が保管をするそうです。
実際に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」は、公布されただけで、公布の日から2年以内に施行されることとされています。
いますぐ法務局に遺言書の保管を申請しても受付られませんので注意が必要です。
相続により土地を取得した人が相続登記をしないで死亡した場合の登録免許税の免税措置
個人が相続によって土地の所有権を取得したのに、相続の所有権移転登記をしないまま死亡した場合、その死亡した人の名義にする登記については登録免許税がかからないことになりました(租税特別措置法第84条の2の3第1項)。
適用期間は、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間とのことです。
このような規定ができたのは、相続登記が未了のまま放置されることが多くなっていることへの対応策のようです。
具体的に現在生きている人の誰が財産を取得するかは話し合いが付いていないけど、その前の代の名義(自分たちの亡父母など)にすることまでは話が付いているような場合には、利用できる制度なのかもしれません。
高齢者職権消除の取り扱い
成年後見業務や相続登記業務で戸籍謄本や除籍謄本を目にする機会が多いのですが、戸籍上では生存していることになっているけれども、生年月日から推測すると明らかに生存しているわけないでしょうという年齢に達しているのに死亡の記載がなく、住民登録も消除されていて戸籍の附票にも記載がないケースがあります。
戸籍上の生年月日から推定すると、どうみても生存しているとは思われないような場合には、役所が職権で死亡した旨を戸籍に記録する運用があります(平成2年3月1日法務省民事局二課通達)。
この場合、戸籍に死亡の記載がされても戸籍行政上の便宜的な取り扱いなので法律的に死亡したということにはなっていません。
なので戸籍に高齢者職権消除の記載がされただけでは、相続が開始したとはいえず相続登記も進められないことになります。
この理由としては、被相続人の戸籍に死亡の記載がなされても単に戸籍行政上の便宜によるもので失踪宣告のような法的効果を生ずるものでないからと考えられています。
つまり、戸籍上で高齢者職権消除の処理がされただけでは、相続登記はできないということは気をつけておかなければなりません。
では法的にその人が死亡したと認めてもらうためにはどうしたら良いかということになりますが、
考えられる方法としては3つで、
1.失踪宣告の制度を利用するか、
2.死亡届を提出できるかを検討するか、
3.戸籍法第89条の規定による死亡の報告によるか
になります。
戸籍を見ていて「高齢者につき死亡と認定平成30年2月4日許可同月日除籍」という記載があったら要注意です。
遺贈があったら登記をしておく
相続登記と遺贈の登記が違う点はいろいろありますがその1つについて説明します。
遺贈とは、遺言によって他人に財産を与えることを指します。
遺贈には2種類あります。包括遺贈と特定遺贈です。
包括遺贈は、遺言する人の全財産に対する割合を定めて他人に財産を与える方法です。
特定遺贈は、遺言する人の全財産ではなく、目的物を指定して他人に財産を与える方法です。
包括遺贈で財産を与えるとされた人(受遺者)は、包括受遺者と呼ばれます。
包括受遺者は、遺贈をした人の戸籍上の法定相続人ではない第三者であっても、相続人の同じような権利義務をもつとされています。
つまり通常の相続が発生したのと同じような状態になるということです。
通常の相続ですと、たとえば自宅の登記名義を何年もそのままにしていたというケースもよく見聞きします。
また万が一、他の共同相続人が勝手に民法の法定相続分にしたがった共同相続の登記をしたからといって、登記された自分の法定相続分が第三者に移転してしまうということは犯罪でもない限り考えられません。
しかし、相続人の同じ権利義務をもつとされている包括遺贈の場合は、その遺言書を使って遺贈による所有権移転登記をしておかないと第三者に対抗できないとした裁判例(東京高等裁判所昭和34年10月27日判決。所有権確認等請求事件 )もあります。
この判決文では、「民法第177条によりその遺贈による所有権取得の登記をしなければその 取得を以て第三者に対抗することができない」という表現になっています。
ということで、もし自分に包括遺贈がされたことを知ったらなるべく早く登記手続きを進めたほうが良いでしょう。
特定遺贈の場合は、目的物を指定して財産を与えられますから、遺言であっても財産を与えるという効果自体、生前に贈与が行われるのと同じことなので、遺贈の目的物が不動産の場合ですと、やはりきちんと登記をしておかないと第三者に対抗できなくなってしまいます(最高裁判所昭和39年3月6日判決。第三者異議事件)。
この判決文では、「遺贈は遺言によつて受遺 者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限と するものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与 と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を 原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じない」という表現になっています。
相続登記で被相続人の同一性を確認するための書類
相続登記では、登記記録に記載されている人と亡くなった人が同一人物であるかどうか、つまり被相続人の同一性確認のために、被相続人の戸籍謄本に記載されている氏名・本籍と、登記記録上の氏名・住所が同一かどうかを証明する必要があります。
被相続人の本籍と登記記録に記載されている本人の住所が同じなら、戸籍謄本が被相続人の同一性を確認するための書類となります。
本籍と登記記録に記載されている住所が異なる場合は、住所を確認するために本籍の記載のある住民票の除票や戸籍の附票によって証明する必要があります。
このような住民票の除票や戸籍の附票の他にも、所有権に関する被相続人名義の登記済権利証を提供しても良いとされています(平成29年3月23日付法務省民二第175号)。
住民票の除票や戸籍の附票は、亡くなってから5年以上経過すると取得することができなくなってしまうことがほとんどなので、そのような場合には、所有権に関する被相続人名義の登記済権利証を利用すると便利です。
もし所有権に関する被相続人名義の登記済権利証もなくしてしまっていて提出できないという場合には、固定資産税評価額証明書や上申書等の書類で代用することになりますが、事前に法務局に相談しておくなどの対応が必要になります。
時効取得の要件としての自主占有
民法第162条の規定が時効取得に関するものです。
1.20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
この規定から、時効取得が成立するためには、
①所有の意思をもった占有(自主占有)
②平穏かつ、公然とした占有
③一定期間占有が継続していること(20年間または10年間)
④③が10年間の場合は、占有の開始時に、善意かつ無過失であること
が必要とされています。
ここで①の所有の意思をもった占有(自主占有)とは、どのようなことをいうのかがわかりにくいと思います。
所有の意思をもった占有(自主占有)とは、自分ものだと思って占有することをいいます。時効取得という一定の期間の経過を経て所有権を原始取得するという制度があるとおり、その時点で実際に所有権を有している必要はありません。
自主占有という用語の反対は、他主占有という用語になります。
他主占有とは、自主占有以外の占有とされていますので、所有の意思をもっていない占有ということになります。具体的には、実際の所有者から借りている状態の占有や、実際の所有者から預かっている状態の占有をいいます。
ですから、実際の所有者から土地を借りている人(借地人)が、その占有期間が10年経とうが20年経とうが、自主占有ではなく、他主占有なのですから、民法第162条による時効取得は成立しないわけです。
土地を貸していた人にとっても、いきなり借地人が「時効取得で俺のものだ」と言われてもビックリしてしまいますよね。
ところで農地の時効取得については農地法の許可は不要とされていますが、農地法の許可がない状態での占有は、そもそも所有権が移転していないのだから、所有の意思をもった占有(自主占有)といえるのだろうかという問題があります。
事例としては、A名義の農地をBが買いたいということで売買契約を締結し、BはAに売買代金も支払い、占有も開始していた、農地法の許可が得られないまま10年または20年が経過したようなケースです。
最高裁判所第一小法廷は、占有における所有の意思の有無の判断基準について、昭和45年6月18日判決において、「占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきであり、原審の確定した事実によれば、前示の賃貸借が農地調整法5条(昭和21年法律第42号による改正前のもの)所定の認可を受けなかつたため効力が生じないものであるとしても、上告人の占有をもつて他主占有というに妨げなく、同旨の原審の判断は正当として首肯することができる。」と判示して、所有の意思は、占有開始の原因から外形的客観的に定められるとしました。
よって、農地法の許可がなくても、占有開始時点で所有の意思をもった占有であると外形的客観的に判断できれば、自主占有であるといえることになります。
上の判例は、他主占有であることを認定した事案ですが、自主占有であることを認定した事案としては、最高裁判所第一小法廷昭和52年3月3日の判決「農地を賃借していた者が所有者から右農地を買い受けその代金を支払つたときは、当時施行の農地調整法4条によつて農地の所有権移転の効力発生要件とされていた都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を得るための手続がとられていなかつたとしても、買主は、特段の事情のない限り、売買契約を締結し代金を支払つた時に民法185条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものというべきである。」
最高裁判所第二小法廷平成13年10月26日の判決「農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い当該農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって同農地の占有を始めたものと解するのが相当である。」
があります。
寄与分の主張
遺産分割協議の中で相続人から寄与分の主張がなされることがあります。
民法では、相続人のなかに長期にわたって献身的に亡くなった被相続人の療養看護等で支えてきた人で特に相続財産の維持や増加に貢献したような人に「寄与分」を認めることによって、各相続人間の公平を図ろうとしています。
民法第904条の2には次のような規定があります。
1.共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2.前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3.寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4.第二項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
民法第904条の2の規定を受けて、寄与分が認められるための要件としては
1.寄与行為の存在
2.寄与行為が「特別の寄与」と評価できること
3.被相続人の財産の維持または増加があること
4.寄与行為と被相続人の財産の維持と増加との間に因果関係があると評価できること
が挙げられています。
なので遺産分割協議のなかで「私は亡くなった母のために尽くした」と主張しても「特別の寄与」と認められる場合もありますし、「特別の寄与」と認められない場合もあるということになります。
民法第904条の2の規定を受けて、寄与行為の類型を整理してみると
1.家事従事による寄与行為
2.金銭等の財産給付による寄与行為
3.その他の方法(扶養)による寄与行為
4.療養看護による寄付行為
5.財産管理による寄付行為
6.上記5類型の複合による寄付行為
といったものになります。
これらの寄付行為について、「特別の寄与」と評価できるか、被相続人の財産の維持または増加があったのか、その因果関係があると言えるのかを検討してはじめて寄与分の有無が判断されることになります。
農地の時効取得
農地を時効取得する場合、農地法の許可は不要です。
以下、最高裁判所第一小法廷昭和50年9月25日判決の判示です。
時効による農地所有権の取得については、農地法3条の適用はない。
「農地法3条による都道府県知事等の許可の対象となるのは、農地等につき新たに所有権を移転し、又は使用収益を目的とする権利を設定若しくは移転する行為に限られ、時効による所有権の取得は、いわゆる原始取得であつて、新たに所有権を移転する行為ではないから、右許可を受けなければならない行為にあたらないものと解すべきである。時効により所有権を取得した者がいわゆる不在地主である等の理由により、後にその農地が国によつて買収されることがあるとしても、そのために時効取得が許されないと解すべきいわれはない。」
つまり農地法の許可が必要な所有権移転というのは、新たに所有権を移転する行為を指すので、時効取得のような原始取得はこれにあたらないということです。
代償分割を利用した遺産分割協議
故人の名義のマンションについて相続人A・B間の遺産分割協議の中で、相続人Aがそのマンションの名義を取得することになったけれど、そうするとAの相続分が、Bの相続分に比べてバランスが取れない(多すぎる)というケースがあります。
その分、Bには故人の預貯金を相続してもらえば良いのでしょうが、見合うだけの預貯金が遺されていない場合もあります。
ではこの場合、マンションの登記名義をA・B2名の共有にすれば良いという考え方もありますが、相続登記の名義を共有にしてしまうと、後々いざマンションを処分(売却)しようという段階になった場合、売主としてA・B双方がともに行動しなければならず、媒介契約、売買契約、残金決済等なにかと手間と時間がかかる場面で日程調整も含め苦労することが多くあります。
また相続登記を共有名義にしておくと、売る売らないの判断も独断で進めることができません。さらには、A・Bのうちどちらかが亡くなってしまい、さらに相続登記がされることになり、親戚とはいえ普段から交流のない者同士がマンションの共有名義となってしまうと、処分するのにもさらに苦労するかもしれません。
このような事態にならないようにマンションの名義はAさんのみとし、Bさんの相続分として、Aさん固有の財産(不動産でも金銭等でも可)をBさんに移転することを合意するという遺産分割協議の方法もあります。これを代償分割と呼んでいます。
相続税法基本通達19の2-8では、代償分割のことを「共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割」と定義しています。
また家庭裁判所で行われている遺産分割調停でも、家事事件手続法第195条で債務を負担させる方法による遺産の分割として、「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。」と規定しており、代償分割の運用がなされています。
実際に、Aがもともと所有していた不動産をBに移転する内容の遺産分割協議が成立した場合には、「遺産分割による贈与」や「遺産分割による売買」などという登記原因でAからBに所有権移転登記をすることができます。
特別養子の相続権
特別養子とは、子どもの福祉のための養子縁組制度です。いろいろな事情によって実父・実母が養育できない場合、その子が家庭で養育を受けられるようにすることを目的としています。
特別養子縁組ができるのは、子どもの年齢が6歳になるまでです。ただし、6歳未満から事実上養育していたと認められた場合は8歳未満まで特別養子縁組が可能となっています。
特別養子が成立すると、特別養子になった子と、実父・実母との間の親族関係は終了することになります(民法第817条の9)。ただし婚姻障害事由(近親婚の禁止)は残ります。
よって特別養子となった子と実父・実母との間の相続関係は生じません。司法書士が相続登記の手続きをする場合、注意が必要な点です。
ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出子を特別養子とする場合は、実父・実母やその血族との親族関係は終了しません(民法第817条の9ただし書)。
« Older Entries Newer Entries »