Archive for the ‘不動産登記’ Category
農地の時効取得
農地を時効取得する場合、農地法の許可は不要です。
以下、最高裁判所第一小法廷昭和50年9月25日判決の判示です。
時効による農地所有権の取得については、農地法3条の適用はない。
「農地法3条による都道府県知事等の許可の対象となるのは、農地等につき新たに所有権を移転し、又は使用収益を目的とする権利を設定若しくは移転する行為に限られ、時効による所有権の取得は、いわゆる原始取得であつて、新たに所有権を移転する行為ではないから、右許可を受けなければならない行為にあたらないものと解すべきである。時効により所有権を取得した者がいわゆる不在地主である等の理由により、後にその農地が国によつて買収されることがあるとしても、そのために時効取得が許されないと解すべきいわれはない。」
つまり農地法の許可が必要な所有権移転というのは、新たに所有権を移転する行為を指すので、時効取得のような原始取得はこれにあたらないということです。
代償分割を利用した遺産分割協議
故人の名義のマンションについて相続人A・B間の遺産分割協議の中で、相続人Aがそのマンションの名義を取得することになったけれど、そうするとAの相続分が、Bの相続分に比べてバランスが取れない(多すぎる)というケースがあります。
その分、Bには故人の預貯金を相続してもらえば良いのでしょうが、見合うだけの預貯金が遺されていない場合もあります。
ではこの場合、マンションの登記名義をA・B2名の共有にすれば良いという考え方もありますが、相続登記の名義を共有にしてしまうと、後々いざマンションを処分(売却)しようという段階になった場合、売主としてA・B双方がともに行動しなければならず、媒介契約、売買契約、残金決済等なにかと手間と時間がかかる場面で日程調整も含め苦労することが多くあります。
また相続登記を共有名義にしておくと、売る売らないの判断も独断で進めることができません。さらには、A・Bのうちどちらかが亡くなってしまい、さらに相続登記がされることになり、親戚とはいえ普段から交流のない者同士がマンションの共有名義となってしまうと、処分するのにもさらに苦労するかもしれません。
このような事態にならないようにマンションの名義はAさんのみとし、Bさんの相続分として、Aさん固有の財産(不動産でも金銭等でも可)をBさんに移転することを合意するという遺産分割協議の方法もあります。これを代償分割と呼んでいます。
相続税法基本通達19の2-8では、代償分割のことを「共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割」と定義しています。
また家庭裁判所で行われている遺産分割調停でも、家事事件手続法第195条で債務を負担させる方法による遺産の分割として、「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。」と規定しており、代償分割の運用がなされています。
実際に、Aがもともと所有していた不動産をBに移転する内容の遺産分割協議が成立した場合には、「遺産分割による贈与」や「遺産分割による売買」などという登記原因でAからBに所有権移転登記をすることができます。
特別養子の相続権
特別養子とは、子どもの福祉のための養子縁組制度です。いろいろな事情によって実父・実母が養育できない場合、その子が家庭で養育を受けられるようにすることを目的としています。
特別養子縁組ができるのは、子どもの年齢が6歳になるまでです。ただし、6歳未満から事実上養育していたと認められた場合は8歳未満まで特別養子縁組が可能となっています。
特別養子が成立すると、特別養子になった子と、実父・実母との間の親族関係は終了することになります(民法第817条の9)。ただし婚姻障害事由(近親婚の禁止)は残ります。
よって特別養子となった子と実父・実母との間の相続関係は生じません。司法書士が相続登記の手続きをする場合、注意が必要な点です。
ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出子を特別養子とする場合は、実父・実母やその血族との親族関係は終了しません(民法第817条の9ただし書)。
抵当権抹消書類をそのままにしていた
住宅ローンを完済して、銀行や取り扱いの会社から書類が送られてきたけど中味を確認しないままそのままにしていた。
先日書類の中味を確認したところ抵当権抹消登記をするようにとのことで抹消登記申請に必要な書類が入っていた。
しかも、書類には3ヶ月の有効期限があるとのことで、当然その期限は過ぎてしまっている。どうしたら良いか。というお問い合わせを頂くことがあります。
「3ヶ月の有効期限がある書類」というのは、抵当権者である金融機関等の代表者事項証明書のことを指していると思われます。
この代表者事項証明書自体は、法務局で誰でも(その金融機関以外の人でも)取得することができますので、有効期限である3ヶ月以内のものは追完可能です。またそもそも会社法人等番号を提供すれば代表者事項証明書の添付は省略できます。
ただし、住宅ローン完済当時の抵当権者(ほとんどの場合、会社)の代表者が、現在の代表者と違っている場合もあります。
その場合、送られてきた抵当権抹消書類のなかに入っている登記申請用の委任状には、住宅ローン完済当時の抵当権者の代表者が委任者として記載されているため、現在の代表者事項証明書に記載されている代表者と不一致となってしまいます。
もし会社法人等番号を提供しても住宅ローン完済当時の抵当権者の代表者の資格を証明することができないような場合は、登記事項証明書を添付する必要があります(平成27年10月23日民二第512号)。
このような場合、住宅ローン完済当時に抵当権者の代表者の代理権(当該登記申請に関するもの)は、代表者の退任をしても消滅しないことになっています(不動産登記法第17条)。
よって冒頭のお問い合わせに対する回答としては、当時の書類を利用することは可能ということになります。
ただ、実際には現在の抵当権者の代表者が誰なのかを確認する必要がありますし、場合によっては登記事項証明書を取得する必要もあります。抵当権者である相手方に問い合わせをして登記事項証明書の再発行をお願いすると先方で手配してくれるケースもありますが有料となることもあるようです。
また、司法書士が抵当権抹消登記の申請を代理する場合は、本人確認手続きが必要ですので、抵当権者に問い合わせをすることになり、結果として抵当権抹消書類の再発行手続きしてもらい、現在の代表者の名前で委任状や抵当権解除証書を再発行してもらうことも多くあります。
物件所有者が亡くなっている場合の抵当権抹消登記
住宅ローンが付いていたマンション物件の所有者が亡くなったので、団体信用生命保険の適用で住宅ローンが解除になった場合、抵当権抹消登記ができるようになりますが、当該マンションの相続登記をしないままで抵当権抹消登記の申請ができるでしょうか?というお問い合わせを頂くことがあります。
結論から言うと相続登記をしないままで抵当権抹消登記を申請することはできません。
相続による所有権移転登記をした後で、登記名義を受けた人が申請となって抵当権抹消登記を申請することになります。
ただし、マンションの名義が共有になっている場合、たとえばAB共有でAが死亡しAに関する相続登記をしていない場合、抵当権抹消登記が必要な場合ですと、共有に関する保存行為としてB1人から抵当権抹消登記の申請ができます。
なお抵当権抹消登記は、物件の所有者と抵当権者との共同申請で行いますので、司法書士は物件の所有者と抵当権者の双方から委任を受けて登記申請手続きを行うことになります。
コンビニ交付に係る証明書等を提供して不動産登記の申請がされた場合の取扱
コンビニ交付に係る証明書等を提供して不動産登記の申請がされた場合の取扱いについて法務省民二・民商第240号として法務省民事局民事第二課長法務省民事局商事課長から通知が出ています。
この通知によると、コンビニで発行される証明書とは、コンビニエンスストアに設置されているタッチパネル式の端末装置の IC カードリーダに事前に証明書等のコンビニ交付を受けるための情報が入力された住民基本台帳カードをかざして、本人確認を行った上、交付手数料を納めると、印鑑証明書や住民票の写し等として交付されるものとされています。
コンビニで発行される証明書等には、偽造防止策として、証明書等をコピー機で複写した場合に「複写」という文字(けん制文字)が浮かび上がる措置に加えて、証明書等の裏面に偽造防止検出画像及びスクランブル画像を印刷する措置が施されています。
このコンビニで発行される証明書等を提供して不動産登記の申請がされた場合の法務局側の取扱いについて、上記通知によると、従来の市役所等で発行された証明書と取り扱いが異なる点としては、証明書等の「裏面」について、専用の読取機を使用して偽造防止検出画像の確認を行うことになっています。
法務局においてこの審査を行っても、なお証明書等の真贋について疑義があるときは、当該証明書等を発行した市区町村に対して偽造の有無等を問い合わせて確認をするものとし、その問い合わせ方法については、次のとおりとするとなっていて
(1)印鑑証明書については、あらかじめ印鑑証明書を発行した市区町村の担当者に連絡を取った上で、印鑑証明書の原本を当該市区町村あてに持参又は送付をする方法によるものとする。なお、送付の方法による場合には、書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うものによるものとする。おって、この場合には、市区町村から問い合わせに対する回答がされるまでの間、印鑑証明書の写しを申請情報と併せて保管しておくものとする。
(2)住民票の写しについても、(1)と同様とする。
ただし、市区町村に対して住民票め写しに記載された事項を電話やファックスにより確認することができる場合には、これらの方法によることも差し支えない。
という取り扱いのようです。
上記の確認を行った場合には、当該確認を行った旨を申請情報又は証明書等の適宜の欄に記載するものとする。となっています。
今回この通知を記事にしたのは、相続登記の添付情報として印鑑証明書の原本還付を受ける際に印鑑証明書のコピーを添付するのですが、いつものとおりに印鑑証明書の表面だけをコピーして登記申請をしたところ、コンビニ発行の印鑑証明書については、表面だけではなく裏面もコピーするようにと法務局から指摘を受けたのがきっかけです。
上記通知にもあるように、コンビニ発行の印鑑証明書には裏面に偽造防止検出画像があり、友人の司法書士に確認したところ、それを専用の読取機を使用して偽造防止検出画像の確認を行っている関係で裏面のコピーも必要なのではないかとのことでした。
予告登記とその抹消手続き
平成16年に不動産登記法が改正されていますが、改正前の不動産登記法では「予告登記」という制度がありました。
「予告登記」とは、登記原因の無効や取消しを理由として、裁判所に登記抹消や登記回復の訴訟が起こされた場合に、裁判所が「登記をめぐって裁判が行われている最中なので、裁判結果によって影響を受ける可能性があるよ」ということを登記簿(登記記録)を見た人に予告するために登記することをいいます。裁判所は、法務局に登記するようにと嘱託して法務局が予告登記として登記することになります。
たとえばA名義の土地についてBに売買を原因として所有権移転がなされた場合、Aが原告として、Bを被告として、ABの間の売買契約の無効を主張して所有権移転登記の抹消登記請求訴訟を提起した場合に、この予告登記がされていました。
この土地を買い受けようとする第三者は、登記簿(登記記録)を見れば現在B名義となっているのだからBから買い受ければ良いと思って売買契約を締結しようと思うかもしれませんが、AB間に売買契約をめぐるトラブルがあって訴訟の結果によっては、所有権を取得できなくなる恐れがあります。そこで一般の第三者に警告するために、現在この土地については訴訟が提起されていますと公示するように裁判所が法務局に嘱託して登記をするという制度でした。
この予告登記は、単に警告の効果を持つだけで登記としての対抗力(権利を第三者に法的に主張できる効力)はありませんが、この制度を悪用して競売の邪魔をしたりする事例やそもそもの存在意義の乏しさが指摘されてきたこともあり平成16年の不動産登記法の改正によって制度自体が廃止されました。
ところが、平成16年の不動産登記法改正前に登記されてきたこの「予告登記」が現在も残っている場合があります。
そのような場合、制度自体が廃止されていますので予告登記の抹消手続きが必要となるわけですが、不動産登記規則附則18条にその手順についての規定があり、「不動産登記法の施行に伴う登記事務の取扱いについて(通達)(平成17年2月25日法務省民二第457号)」にも説明があります。
■不動産登記規則附則18条
(予告登記の抹消)
第18条 登記官は、職権で、旧法第三条に規定する予告登記の抹消をすることができる。
2 登記官は、この省令の施行後、登記をする場合において、当該登記に係る不動産の登記記録又は登記用紙に前項の予告登記がされているときは、職権で、当該予告登記の抹消をしなければならない。
■平成17年2月25日法務省民二第457号
(予告登記の取扱い)
既存の予告登記の職権抹消
(2)規則附則第18条の規定により職権で予告登記を抹消するときは、権利部の相当区に「不動産登記規則附則第18条の規定により抹消」と記録するものとする。
ということで、対象となる不動産について、何か登記申請をする際に合わせて、残っている「予告登記」を法務局(登記官)の職権で抹消手続きをしてもらえるということになっています。
抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をした抵当権の抹消
抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をした抵当権についてその抵当権の登記の抹消を申請する場合に提供すべき登記識別情報について(通知)(平成17年8月26日付法務省民二第1919号)
「抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をした後、この抵当権の登記の抹消を申請する場合に提供すべき登記識別情報は、この抵当権について設定の登記がされた際に通知された登記識別情報のみで足りる。」
抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更登記をした際には、法務局から抵当権者に登記識別情報は通知されませんので、この抵当権を抹消する場合には、当初抵当権設定登記をしたときに交付された登記識別情報を提供することになります。
一見当たり前のことを言っているようですが、登記識別情報制度以前には、抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記では、登記済証が発行されていたので、私も含め当時から登記実務に携わっている人からすると一瞬「あれ?」と困惑してしまうこともあるかと思います。
登記識別情報制度以前に抵当権設定登記をして抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をしていた場合には、抹消登記には抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更登記済証の添付が必要となります。
公証人による本人確認
親族間で土地・建物を売買したり、第三者に売却したり。生前贈与(夫婦間の居住用不動産の贈与)をしたり、銀行で住宅ローンの借り換えをする場合などに権利書(登記識別情報又は登記済証)をなくしてしまった等の事情により、法務局へ提出することができない場合があります。
この場合、不動産登記法第23条第4項第2号による「公証人の認証による本人確認」という制度によって、対応するケースがあります。
不動産登記法第23条第1項では次のように規定されています。
「登記官は、申請人が前条(第22条-登記識別情報の提供)に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。」
この規定は、原則として登記識別情報等の提供が必要であるとし、もし提供できない場合は登記義務者に対して、登記官という法務局の担当職員から、「登記申請がありました。その登記申請は間違いありませんか?回答してください。」と通知し、その回答を一定期間を設けて求めています。いわゆる「事前通知」というものになります。この期間内に登記義務者から回答がないと、登記申請は却下されてしまいます。
このような事前通知の規定に対し、不動産登記法第23条第4項では
第1項の規定(登記識別情報の提供や事前通知)は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用しない。としています。
そして登記識別情報の提供や事前通知を適用しない場合として不動産登記法第23条第4項第2号では、
「当該申請に係る申請情報(委任による代理人によって申請する場合にあっては、その権限を証する情報)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人(公証人法 (明治四十一年法律第五十三号)第八条 の規定により公証人の職務を行う法務事務官を含む。)から当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。 」
と規定しています。
この規定によると
■公証人が登記義務者(不動産の名義人)であることを確認するために必要な認証をして
■登記官がその内容を相当と認めるとき
これら双方を充たしていれば、事前通知をせずに権利書がなくても登記申請が受理されることになります。
この公証人の認証の文言については、平成17年2月25日法務省民二第457号という通達で具体的に定められています。
(1)申請書等について次に掲げる公証人の認証文が付されている場合には、不動産登記法第23条第4項第2号の本人確認をするために必要な認証としてその内容を相当と認めるものとする。
ア 公証人法第36条第4号に掲げる事項を記載する場合
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」
イ 公証人法第36条第6号に掲げる事項を記載する場合
(ア)印鑑及び印鑑証明書により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。 本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
(イ)運転免許証により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。 本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
登記申請の委任を受ける司法書士としては、登記義務者本人と一緒に公証役場に行き、登記義務者本人に署名・実印を押してもらう登記申請に関する委任状に公証人の面前で署名してもらい上記の認証文の入った書面と合綴してもらい法務局に提出することになります。
司法書士は登記申請の委任を受ける際は、本人確認・意思確認を行っていますが、公証人とともにこれを行っているような感じになります。
このことからも分かるとおり、権利証または登記識別情報を紛失したので代わりに公証人による本人確認を利用したいという場合、登記申請手続きに伴ってということになります。司法書士が登記申請手続きを前提としないで公証人による本人確認制度を利用したサポートをすることは想定していません。また売買や贈与などを原因とした所有権移転登記申請の場合、権利証又は登記識別情報を提供するのは登記義務者(売買の場合は売主、贈与の場合は贈与者)ですが、司法書士は登記権利者(売買の場合は買主、贈与の場合は受贈者)からも登記申請行為の委任を受ける必要がありますので、権利証または登記識別情報を紛失して公証人による本人確認制度を利用する場合は、その方からもどこの司法書士を利用するのかを事前に確認しておいた方が良いということになります。
ちなみに公証人の手数料は3500円です。
小川直孝司法書士事務所では「公証人による本人確認制度」を利用した登記手続きも行っておりますのでお気軽にお問い合わせください。
3か月を経過した相続放棄の申述の申立
相続放棄の申述は,自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないことになっています(民法第915条第1項)。
第915条1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第915条2項
相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
しかし、その「3か月」を経過した後に相続放棄をしたいと考える事情が出てくる場合もあります。
たとえば、自分の父親が死亡した時点では、父の遺産はプラスもマイナスも全く存在しなかった(と思っていた)ので、相続放棄も含め何も手続きをしないでいたところ、死後3か月以上が経過した頃、クレジット会社から父親名義の立替金債務について、「あなたは亡父○○様の相続人なので相続債務として支払う義務があります。」として督促が来たという場合です。
最高裁判所は、昭和59年4月27日第二小法廷判決で
「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」として民法915条1項所定の熟慮期間について、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとしました。
上記の例でいえば、自分の父親の死亡を知ってから3か月以上が経過したとしても、父親の生前の生活状況や父親との交流状況などから、家庭裁判所において、相続放棄の申述を申し立てた相続人が、相続放棄の申述の申立を父親が死亡したこととを知ってから3か月以上経過してから行ったとしても、父親名義の相続財産が全く存在しないと信じていたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由があると認めた場合には、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識できると考えられる時から3か月の期間がスタートするということになります。
上記の最高裁判所の判決では、「相続財産が全く存在しないと信じた」という文言を用いて結論を導いているため、もし相続人において「遺産の一部でも存在していたこと」を認識していた場合には、判決の文言にそのまま当てはめますと相続放棄の申述の申立は受理されないように思われます。
この点については、最高裁判所レベルでは判例が出ていませんが、高等裁判所でいくつか決定等が出ています。
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