Archive for the ‘不動産登記’ Category
抵当権抹消書類をそのままにしていた
住宅ローンを完済して、銀行や取り扱いの会社から書類が送られてきたけど中味を確認しないままそのままにしていた。
先日書類の中味を確認したところ抵当権抹消登記をするようにとのことで抹消登記申請に必要な書類が入っていた。
しかも、書類には3ヶ月の有効期限があるとのことで、当然その期限は過ぎてしまっている。どうしたら良いか。というお問い合わせを頂くことがあります。
「3ヶ月の有効期限がある書類」というのは、抵当権者である金融機関等の代表者事項証明書のことを指していると思われます。
この代表者事項証明書自体は、法務局で誰でも(その金融機関以外の人でも)取得することができますので、有効期限である3ヶ月以内のものは追完可能です。またそもそも会社法人等番号を提供すれば代表者事項証明書の添付は省略できます。
ただし、住宅ローン完済当時の抵当権者(ほとんどの場合、会社)の代表者が、現在の代表者と違っている場合もあります。
その場合、送られてきた抵当権抹消書類のなかに入っている登記申請用の委任状には、住宅ローン完済当時の抵当権者の代表者が委任者として記載されているため、現在の代表者事項証明書に記載されている代表者と不一致となってしまいます。
もし会社法人等番号を提供しても住宅ローン完済当時の抵当権者の代表者の資格を証明することができないような場合は、登記事項証明書を添付する必要があります(平成27年10月23日民二第512号)。
このような場合、住宅ローン完済当時に抵当権者の代表者の代理権(当該登記申請に関するもの)は、代表者の退任をしても消滅しないことになっています(不動産登記法第17条)。
よって冒頭のお問い合わせに対する回答としては、当時の書類を利用することは可能ということになります。
ただ、実際には現在の抵当権者の代表者が誰なのかを確認する必要がありますし、場合によっては登記事項証明書を取得する必要もあります。抵当権者である相手方に問い合わせをして登記事項証明書の再発行をお願いすると先方で手配してくれるケースもありますが有料となることもあるようです。
また、司法書士が抵当権抹消登記の申請を代理する場合は、本人確認手続きが必要ですので、抵当権者に問い合わせをすることになり、結果として抵当権抹消書類の再発行手続きしてもらい、現在の代表者の名前で委任状や抵当権解除証書を再発行してもらうことも多くあります。
物件所有者が亡くなっている場合の抵当権抹消登記
住宅ローンが付いていたマンション物件の所有者が亡くなったので、団体信用生命保険の適用で住宅ローンが解除になった場合、抵当権抹消登記ができるようになりますが、当該マンションの相続登記をしないままで抵当権抹消登記の申請ができるでしょうか?というお問い合わせを頂くことがあります。
結論から言うと相続登記をしないままで抵当権抹消登記を申請することはできません。
相続による所有権移転登記をした後で、登記名義を受けた人が申請となって抵当権抹消登記を申請することになります。
ただし、マンションの名義が共有になっている場合、たとえばAB共有でAが死亡しAに関する相続登記をしていない場合、抵当権抹消登記が必要な場合ですと、共有に関する保存行為としてB1人から抵当権抹消登記の申請ができます。
なお抵当権抹消登記は、物件の所有者と抵当権者との共同申請で行いますので、司法書士は物件の所有者と抵当権者の双方から委任を受けて登記申請手続きを行うことになります。
コンビニ交付に係る証明書等を提供して不動産登記の申請がされた場合の取扱
コンビニ交付に係る証明書等を提供して不動産登記の申請がされた場合の取扱いについて法務省民二・民商第240号として法務省民事局民事第二課長法務省民事局商事課長から通知が出ています。
この通知によると、コンビニで発行される証明書とは、コンビニエンスストアに設置されているタッチパネル式の端末装置の IC カードリーダに事前に証明書等のコンビニ交付を受けるための情報が入力された住民基本台帳カードをかざして、本人確認を行った上、交付手数料を納めると、印鑑証明書や住民票の写し等として交付されるものとされています。
コンビニで発行される証明書等には、偽造防止策として、証明書等をコピー機で複写した場合に「複写」という文字(けん制文字)が浮かび上がる措置に加えて、証明書等の裏面に偽造防止検出画像及びスクランブル画像を印刷する措置が施されています。
このコンビニで発行される証明書等を提供して不動産登記の申請がされた場合の法務局側の取扱いについて、上記通知によると、従来の市役所等で発行された証明書と取り扱いが異なる点としては、証明書等の「裏面」について、専用の読取機を使用して偽造防止検出画像の確認を行うことになっています。
法務局においてこの審査を行っても、なお証明書等の真贋について疑義があるときは、当該証明書等を発行した市区町村に対して偽造の有無等を問い合わせて確認をするものとし、その問い合わせ方法については、次のとおりとするとなっていて
(1)印鑑証明書については、あらかじめ印鑑証明書を発行した市区町村の担当者に連絡を取った上で、印鑑証明書の原本を当該市区町村あてに持参又は送付をする方法によるものとする。なお、送付の方法による場合には、書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うものによるものとする。おって、この場合には、市区町村から問い合わせに対する回答がされるまでの間、印鑑証明書の写しを申請情報と併せて保管しておくものとする。
(2)住民票の写しについても、(1)と同様とする。
ただし、市区町村に対して住民票め写しに記載された事項を電話やファックスにより確認することができる場合には、これらの方法によることも差し支えない。
という取り扱いのようです。
上記の確認を行った場合には、当該確認を行った旨を申請情報又は証明書等の適宜の欄に記載するものとする。となっています。
今回この通知を記事にしたのは、相続登記の添付情報として印鑑証明書の原本還付を受ける際に印鑑証明書のコピーを添付するのですが、いつものとおりに印鑑証明書の表面だけをコピーして登記申請をしたところ、コンビニ発行の印鑑証明書については、表面だけではなく裏面もコピーするようにと法務局から指摘を受けたのがきっかけです。
上記通知にもあるように、コンビニ発行の印鑑証明書には裏面に偽造防止検出画像があり、友人の司法書士に確認したところ、それを専用の読取機を使用して偽造防止検出画像の確認を行っている関係で裏面のコピーも必要なのではないかとのことでした。
予告登記とその抹消手続き
平成16年に不動産登記法が改正されていますが、改正前の不動産登記法では「予告登記」という制度がありました。
「予告登記」とは、登記原因の無効や取消しを理由として、裁判所に登記抹消や登記回復の訴訟が起こされた場合に、裁判所が「登記をめぐって裁判が行われている最中なので、裁判結果によって影響を受ける可能性があるよ」ということを登記簿(登記記録)を見た人に予告するために登記することをいいます。裁判所は、法務局に登記するようにと嘱託して法務局が予告登記として登記することになります。
たとえばA名義の土地についてBに売買を原因として所有権移転がなされた場合、Aが原告として、Bを被告として、ABの間の売買契約の無効を主張して所有権移転登記の抹消登記請求訴訟を提起した場合に、この予告登記がされていました。
この土地を買い受けようとする第三者は、登記簿(登記記録)を見れば現在B名義となっているのだからBから買い受ければ良いと思って売買契約を締結しようと思うかもしれませんが、AB間に売買契約をめぐるトラブルがあって訴訟の結果によっては、所有権を取得できなくなる恐れがあります。そこで一般の第三者に警告するために、現在この土地については訴訟が提起されていますと公示するように裁判所が法務局に嘱託して登記をするという制度でした。
この予告登記は、単に警告の効果を持つだけで登記としての対抗力(権利を第三者に法的に主張できる効力)はありませんが、この制度を悪用して競売の邪魔をしたりする事例やそもそもの存在意義の乏しさが指摘されてきたこともあり平成16年の不動産登記法の改正によって制度自体が廃止されました。
ところが、平成16年の不動産登記法改正前に登記されてきたこの「予告登記」が現在も残っている場合があります。
そのような場合、制度自体が廃止されていますので予告登記の抹消手続きが必要となるわけですが、不動産登記規則附則18条にその手順についての規定があり、「不動産登記法の施行に伴う登記事務の取扱いについて(通達)(平成17年2月25日法務省民二第457号)」にも説明があります。
■不動産登記規則附則18条
(予告登記の抹消)
第18条 登記官は、職権で、旧法第三条に規定する予告登記の抹消をすることができる。
2 登記官は、この省令の施行後、登記をする場合において、当該登記に係る不動産の登記記録又は登記用紙に前項の予告登記がされているときは、職権で、当該予告登記の抹消をしなければならない。
■平成17年2月25日法務省民二第457号
(予告登記の取扱い)
既存の予告登記の職権抹消
(2)規則附則第18条の規定により職権で予告登記を抹消するときは、権利部の相当区に「不動産登記規則附則第18条の規定により抹消」と記録するものとする。
ということで、対象となる不動産について、何か登記申請をする際に合わせて、残っている「予告登記」を法務局(登記官)の職権で抹消手続きをしてもらえるということになっています。
抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をした抵当権の抹消
抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をした抵当権についてその抵当権の登記の抹消を申請する場合に提供すべき登記識別情報について(通知)(平成17年8月26日付法務省民二第1919号)
「抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をした後、この抵当権の登記の抹消を申請する場合に提供すべき登記識別情報は、この抵当権について設定の登記がされた際に通知された登記識別情報のみで足りる。」
抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更登記をした際には、法務局から抵当権者に登記識別情報は通知されませんので、この抵当権を抹消する場合には、当初抵当権設定登記をしたときに交付された登記識別情報を提供することになります。
一見当たり前のことを言っているようですが、登記識別情報制度以前には、抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記では、登記済証が発行されていたので、私も含め当時から登記実務に携わっている人からすると一瞬「あれ?」と困惑してしまうこともあるかと思います。
登記識別情報制度以前に抵当権設定登記をして抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更の登記をしていた場合には、抹消登記には抵当権の効力を所有権の全部に及ぼす旨の変更登記済証の添付が必要となります。
公証人による本人確認
親族間で土地・建物を売買したり、第三者に売却したり。生前贈与(夫婦間の居住用不動産の贈与)をしたり、銀行で住宅ローンの借り換えをする場合などに権利書(登記識別情報又は登記済証)をなくしてしまった等の事情により、法務局へ提出することができない場合があります。
この場合、不動産登記法第23条第4項第2号による「公証人の認証による本人確認」という制度によって、対応するケースがあります。
不動産登記法第23条第1項では次のように規定されています。
「登記官は、申請人が前条(第22条-登記識別情報の提供)に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。」
この規定は、原則として登記識別情報等の提供が必要であるとし、もし提供できない場合は登記義務者に対して、登記官という法務局の担当職員から、「登記申請がありました。その登記申請は間違いありませんか?回答してください。」と通知し、その回答を一定期間を設けて求めています。いわゆる「事前通知」というものになります。この期間内に登記義務者から回答がないと、登記申請は却下されてしまいます。
このような事前通知の規定に対し、不動産登記法第23条第4項では
第1項の規定(登記識別情報の提供や事前通知)は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用しない。としています。
そして登記識別情報の提供や事前通知を適用しない場合として不動産登記法第23条第4項第2号では、
「当該申請に係る申請情報(委任による代理人によって申請する場合にあっては、その権限を証する情報)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人(公証人法 (明治四十一年法律第五十三号)第八条 の規定により公証人の職務を行う法務事務官を含む。)から当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。 」
と規定しています。
この規定によると
■公証人が登記義務者(不動産の名義人)であることを確認するために必要な認証をして
■登記官がその内容を相当と認めるとき
これら双方を充たしていれば、事前通知をせずに権利書がなくても登記申請が受理されることになります。
この公証人の認証の文言については、平成17年2月25日法務省民二第457号という通達で具体的に定められています。
(1)申請書等について次に掲げる公証人の認証文が付されている場合には、不動産登記法第23条第4項第2号の本人確認をするために必要な認証としてその内容を相当と認めるものとする。
ア 公証人法第36条第4号に掲げる事項を記載する場合
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」
イ 公証人法第36条第6号に掲げる事項を記載する場合
(ア)印鑑及び印鑑証明書により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。 本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
(イ)運転免許証により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。 本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
登記申請の委任を受ける司法書士としては、登記義務者本人と一緒に公証役場に行き、登記義務者本人に署名・実印を押してもらう登記申請に関する委任状に公証人の面前で署名してもらい上記の認証文の入った書面と合綴してもらい法務局に提出することになります。
司法書士は登記申請の委任を受ける際は、本人確認・意思確認を行っていますが、公証人とともにこれを行っているような感じになります。
このことからも分かるとおり、権利証または登記識別情報を紛失したので代わりに公証人による本人確認を利用したいという場合、登記申請手続きに伴ってということになります。司法書士が登記申請手続きを前提としないで公証人による本人確認制度を利用したサポートをすることは想定していません。また売買や贈与などを原因とした所有権移転登記申請の場合、権利証又は登記識別情報を提供するのは登記義務者(売買の場合は売主、贈与の場合は贈与者)ですが、司法書士は登記権利者(売買の場合は買主、贈与の場合は受贈者)からも登記申請行為の委任を受ける必要がありますので、権利証または登記識別情報を紛失して公証人による本人確認制度を利用する場合は、その方からもどこの司法書士を利用するのかを事前に確認しておいた方が良いということになります。
ちなみに公証人の手数料は3500円です。
小川直孝司法書士事務所では「公証人による本人確認制度」を利用した登記手続きも行っておりますのでお気軽にお問い合わせください。
3か月を経過した相続放棄の申述の申立
相続放棄の申述は,自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないことになっています(民法第915条第1項)。
第915条1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第915条2項
相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
しかし、その「3か月」を経過した後に相続放棄をしたいと考える事情が出てくる場合もあります。
たとえば、自分の父親が死亡した時点では、父の遺産はプラスもマイナスも全く存在しなかった(と思っていた)ので、相続放棄も含め何も手続きをしないでいたところ、死後3か月以上が経過した頃、クレジット会社から父親名義の立替金債務について、「あなたは亡父○○様の相続人なので相続債務として支払う義務があります。」として督促が来たという場合です。
最高裁判所は、昭和59年4月27日第二小法廷判決で
「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」として民法915条1項所定の熟慮期間について、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとしました。
上記の例でいえば、自分の父親の死亡を知ってから3か月以上が経過したとしても、父親の生前の生活状況や父親との交流状況などから、家庭裁判所において、相続放棄の申述を申し立てた相続人が、相続放棄の申述の申立を父親が死亡したこととを知ってから3か月以上経過してから行ったとしても、父親名義の相続財産が全く存在しないと信じていたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由があると認めた場合には、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識できると考えられる時から3か月の期間がスタートするということになります。
上記の最高裁判所の判決では、「相続財産が全く存在しないと信じた」という文言を用いて結論を導いているため、もし相続人において「遺産の一部でも存在していたこと」を認識していた場合には、判決の文言にそのまま当てはめますと相続放棄の申述の申立は受理されないように思われます。
この点については、最高裁判所レベルでは判例が出ていませんが、高等裁判所でいくつか決定等が出ています。
法定相続分の規定 民法第900条第4号
民法第900条第4号の規定は、平成25年12月5日,民法の一部を改正する法律の成立、同月11日公布・施行により改正されました。
平成25年12月改正前の民法第900条第4号には、ただし書前半部分に「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1」とする規定がありました。
ここでいう「嫡出でない子」とは,法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことをいいます。
平成25年12月改正後の民法第900条第4号では、嫡出子と嫡出でない子の相続分を等しいものと定めています。
この改正は、平成25年9月4日の最高裁大法廷決定によって平成25年12月改正前の民法第900条第4号ただし書前半部分の「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1」とする規定が、憲法違反と判断されたことにより行われたものです。
平成25年9月4日の最高裁大法廷決定では、憲法違反とした理由として大要、以下のような論理展開をしています。
憲法14条1項に定める法の下の平等の規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。
平成25年12月改正前の民法第900条第4号ただし書前半部分の「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1」とする規定により、嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が,合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かについては、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,上記のような事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであり、また、これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあるから、その定めの合理性については、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され、吟味されなければならない。などとして、民法が改正の変遷を辿りながら、国民の法律婚尊重の意識が広く浸透しているとしても、世界的な状況や国内法制などは変わってきており、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし、嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題なのであると判示しています。
また父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として、その子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているともしています。
遅くとも平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきであり、憲法14条1項に違反していたものというべきであるとしています。この平成13年7月というのは、この最高裁決定のもとになった訴訟における相続開始時期のことを指しています。
そうすると、これまで民法第900条第4号ただし書前半部分の「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1」とする規定をもとに、遺産分割協議や裁判手続きが行われてきたものがすべて憲法違反になってしまうのかという疑問が出てきますが、上記最高裁決定では、その適用範囲についても言及しています。
つまり
■嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分については,遅くとも平成13年7月当時において,法の下の平等を定める憲法14条1項に違反していた。
■この違憲判断は,平成13年7月から平成25年9月4日までの間に開始された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
としています。
これを受けて民法の一部を改正する法律では,最高裁決定日の翌日である平成25年9月5日以後に開始した相続についてこの規定を適用すると定めています(同法附則第2項)。
平成13年7月1日から平成25年9月4日までの間に開始した相続について、この最高裁決定後に遺産分割をする場合は、嫡出子と嫡出でない子の相続分は同等のものとして扱われることになります。
平成13年7月1日から平成25年9月4日までの間に開始した相続について、すでに遺産分割協議や裁判が終了しているなど「確定的なものとなった法律関係」については、この最高裁決定があってもその効力はそのままです。
相続放棄申述の申立書に添付が必要な書類
相続放棄の申述に必要な書類は次のようなものがあります。
■被相続人の住民票除票または戸籍の附票
■申述をする人の戸籍謄本
■被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■申述をする人が,被相続人の孫(代襲相続)の場合
被代襲者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■申述をする人が,被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)の場合
■被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がい場合
その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■被相続人の直系尊属が死亡している場合,その死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■申述する人が,被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(甥・姪)の場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■申述する人が代襲相続人(おい,めい)の場合
被代襲者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
■把握できている範囲で被相続人の遺産に関する資料
小川直孝司法書士事務所では、相続放棄の申述申立書の作成や添付書類となる戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍謄本の取得代行も承っております。お気軽にお問い合わせください。
相続放棄
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないことをいいます。
単に「相続放棄します。」と家族内で表明しても法的な効果は認められず、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」をすることが必要です。
しかもこの申述は,自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないことになっています(民法第915条第1項)。
相続人が上記の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったときは、民法921条の規定により、相続を単純承認したものとみなされますので、相続放棄を考えている場合は、早急に対処が必要です。
当事務所では「相続放棄の申述」申立書の作成もお引き受けしておりますのでお気軽にご相談ください。