賃料(家賃)についても消滅時効が適用されるのをご存知でしょうか?
経済的な余裕のある大家さん(オーナーさん)は、多少の賃料の延滞があっても大目にみてきたという方もいらっしゃるかもしれませんが、賃料の管理が杜撰だといつのまにか「消滅時効の援用通知」という書面が手元に届いてしまうこともあり得ます。
2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約では時効について、民法第166条の規定が適用されます。
民法第166条(債権等の消滅時効) 第1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。 第2項 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。 第3項 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。 |
オーナーさんが賃料請求権を行使できることを知らなかったということはあり得ませんので家賃の滞納は通常は5年で消滅時効期間が満了してしまいます。
消滅時効の期間満了後は、賃借人が時効の援用をすると、滞納家賃の支払い義務が消滅してしまいます。これを避けるためには一定の法的手続きを取る必要があります。これが時効の完成猶予と更新の制度です(民法第147条以下)。
2020年4月1日以前の民法では、「時効の中断」、「時効の停止」という用語を使っていましたが、2020年4月1日以降の民法では、「時効の中断」を「時効の更新」とし、「時効の停止」を「時効の完成猶予」という用語に改めました。
「時効の更新」とは、その更新があった時点から、新たに時効が進行を始めるという意味です。いままでの「時効の中断」ですと、時効の完成猶予の意味で使われることもあったり時効の更新の意味で使われることもあったのを分かりやすく整理したものです。
「時効の完成猶予」とは、一定の事由が生じたら、その事由が終了するまで、時効が完成しないという制度です。いままでの「時効の停止」は意味合いとしては「時効の完成猶予」と同じですが、「停止」という言葉が「一時停止」してまた「時効期間が進行再開」するかのような誤解を生じやすかったため「時効の完成猶予」という用語に整理されました。
オーナーさんとしては、賃借人の賃料(家賃)滞納期間がある場合は、時効期間を気にしなければならないほど滞納期間が長引く前に早めの対処を考えるべきです。また、時効の完成猶予と更新の手続きについては方法を誤ると効果が認められないことになってしまうので注意が必要です。
民法第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新) 第1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。 一 裁判上の請求 二 支払督促 三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停 四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加 第2項 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。 |
民法第148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新) 第1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。 一 強制執行 二 担保権の実行 三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売 四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続 第2項 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。 |
民法第149条(仮差押え等による時効の完成猶予) 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。 一 仮差押え 二 仮処分 |
民法第150条(催告による時効の完成猶予) 第1項 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。 第2項 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。 |
民法第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予) 第1項 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。 一 その合意があった時から一年を経過した時 二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時 三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時 第2項 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。 第3項 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。 第4項 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。 第5項 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。 |
民法第152条(承認による時効の更新) 第1項 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。 第2項 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。 |
このように時効の完成猶予と更新の手続きを定める規定はいろいろあり、要件も細かく定められています。実際にこれらの手続きをするためには専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
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