後見制度支援信託とは、成年後見開始の審判を受けた被後見人の財産管理の方法の1つとして活用される信託のことをいいます。
被後見人の財産が多額な場合、後見人にそのすべての財産を管理させることが適当でないと家庭裁判所が判断した場合、その指示によってその後見人が普段使う予定のない金銭を信託銀行等に信託させ、日常的に使う金銭のみをその後見人に管理させる仕組みです。
民法等の法律でこの後見制度支援信託について定めたものありませんが家庭裁判所の後見監督の中で運用されています。
このような運用が生まれた背景としては、後見人による被後見人の財産横領事案が続いたためとも言われています。
後見制度支援信託は、法定成年後見制度と未成年後見制度でのみ運用がされています。
保佐・補助・任意後見では後見制度支援信託は利用されません。以下未成年後見制度は除いて説明していきます。
被後見人の財産のうち、後見人が普段使う予定のない金銭がいくらなのか、日常的に使う金銭がいくらなのかについては当然ですが事案によって異なります。
たとえば被後見人の財産(金銭)が3,000万円あったとすると、そのうちの2,500万円を後見制度支援信託によって信託銀行に預け、残りの500万円を後見人が日常的に管理する、といった仕組みになります。
「普段使う予定のない金銭を信託銀行等に信託する」といっても、後見人が信託銀行等で普通に口座開設をする訳ではありません。
家庭裁判所の指示のもと、信託契約の締結をすることになります。なので、信託銀行等も家庭裁判所発行の指示書(金○○万円を信託する契約を締結することを指示するもの)がないと後見制度支援信託による口座開設には応じてくれません。
参考 大阪家庭裁判所の書式 |
このように後見制度支援信託は、信託銀行等に「金銭」を信託するものですから、金銭以外の財産(有価証券や不動産)は、いくらその額が大きくてもその対象にはなりません。
ただ被後見人の保有資産に有価証券等(株式・投資信託等)が多く含まれている場合は、後見人によってそれらを売却・解約させ、現金化し後見制度支援信託を利用させるようにするケースもあります。
上記の例で、後見人が普段使う予定の500万円の金銭では後見人の仕事をしていくのに足りなくなってしまう場合も出てきます。
たとえば、施設入所をすることになったとか、重い病気にかかってしまい医療費や介護費用が増加してしまった場合などです。
そのような場合、後見人は家庭裁判所に申立をして、後見制度支援信託で信託している金銭から一時金の交付をうけるよう指示書を受けることもできます。
また年間収支予定がマイナスになることが確実に予想され、定期的に信託財産から金銭の交付を受ける必要がある場合は、後見制度支援信託による信託銀行等との契約締結の際に「定期交付金」という形で信託財産から定期的に日常的に使う金銭を管理している銀行口座に送金してもらう仕組みもあります。
後見制度支援信託を利用した場合、被後見人が委託者兼受益者となり、被後見人が死亡するとその信託は終了します。
後見制度支援信託によって信託された財産は、被後見人(委託者兼受益者)の相続財産として相続人に帰属することになります。
このように後見制度支援信託は、後見人に多額の財産を管理させないようにして横領行為など不正事案を防止することに役立つ制度です。
ただし、後見制度支援信託を利用するためには上述のような信託銀行等との契約締結が必要となり、そのために別の後見人が選任されることになりますので後見人の報酬も別途発生することになります。
被後見人の財産が多額に場合、この後見制度支援信託を利用する方法の他に、後見監督人を選任して後見人の財産管理をチェックしていく方法で後見人の不正防止を図っていくケースもあるようです。