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後見人の印鑑証明書

2020-08-25

後見人がその事務を行っている時に、後見人の資格で自分の印鑑証明書を関係機関に提出する場面が結構あります。

被後見人名義の銀行口座に後見人の設定をする場面では金融機関によって取り扱いが異なりますが後見人の印鑑証明書を提出し、届出書にも実印を押すことを求められることがあります。

また被後見人名義の不動産を売却する場合にも後見人が被後見人を代理して不動産売却手続きを行いますから登記義務者としての印鑑証明書は、後見人の印鑑証明書が必要となるわけです。

ちなみに家庭裁判所では後見人の印鑑を届出ることができることになっていてこの印鑑を使用して不動産の売却のための所有権移転登記に必要な印鑑証明書とすることができます。

参考 不動産登記規則48条1項3号
裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の申請書に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合

司法書士や弁護士など親族以外が成年後見人になっている場合、後見人の住所として登記される住所が
個人の住所ではなく事務所所在地であることも多くこのような規定や取り扱いがあるとその後見人にとっては便利です。

参考 家庭裁判所への印鑑届(山形家庭裁判所のサイト)

 

 

後見人と被後見人の遺産分割協議

2020-08-23

自分が親族の後見人になっている場合、たとえば自分が母親の成年後見人になっている場合、親族後見人と呼ばれます。

この図でいうと、長女が母親の成年後見人になっています。
ここで父親(母親の夫)が死亡し、相続が発生した場合の話です。
父親の遺産(自宅や預貯金など)について、相続による名義変更手続きが必要となります。
父親の法定相続人は、母親、長女、長男ですからこの3名で遺産分割協議をする必要がありますが、母親には成年後見制度の利用がされているため、遺産分割協議には成年後見人が法定代理人として参加することになりそうです。
しかし、母親の成年後見人である長女は、自分も父親の法定相続人でもあるため、母親の代理人の地位と長女の地位が重なってしまっています。
このような場合、長女は遺産分割協議にこの2つの地位をもって参加することはできません。母親の代理人の地位と長女の地位が利益相反となるためです。
長女としては母親の権利を侵害するつもりがなくても遺産分割協議の場面においては、形式的に利益が対立することになるため、2つの地位をもって参加することはできないことになっているのです。

それではどうしたら良いかというと、母親のために家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう方法があります。


成年後見人としての長女の地位をこの特別代理人に代わりに担ってもらうわけです。
特別代理人になった人は、遺産分割協議に参加し、亡夫の相続人としての母親の権利を確保する必要があります。
特別代理人としては最低でも法定相続分以上の財産を母親に取得させその権利を守る必要があります。

参考 特別代理人選任の申立書(裁判所のサイト)

遺産分割協議によって被後見人である母親が不動産を取得することになった場合は、相続登記の申請も必要となります。
この場合、法務局に登記申請をするのは、母親の成年後見人である長女でも良いし、特別代理人でも良いということになっています。
これは、法務局に対する登記申請行為自体が事実行為であって、母親と長女の間での利益相反となる法律行為ではないからです。

当事務所では特別代理人選任申立書の作成・提出のご依頼にも対応しております。お気軽にお問い合わせください。

 

 

 

 

 

相続人に認知症の人がいる場合

2020-08-22

「自分の父親が亡くなって相続が発生した場合、母親の認知症がかなり進んでいた。」というケースは自分の両親がともに同世代であるならば当然想定される状況でしょう。
つまり、相続手続きをする場合に、相続人のなかに認知症の人がいるケースです。

このような場合、「どの遺産を誰が取得するか」という話し合い、つまり「遺産分割協議」が有効に成立しない可能性があります。
上記の例でいうと母親が認知症になっている場合、その進行状況にもよりますが遺産分割協議の前提となる「意思能力」があるかどうかが重要なポイントになります。

「意思能力」とは、自己の行為の結果を判断することができる能力のことをいいます。
遺産分割協議の場面でいえば、亡くなった人の遺産をどのように分割するのかについて遺産分割協議に参加した人はきちんと理解していることが当然必要になります。
このことを理解・認識できていない場合は、たとえ形式的に遺産分割協議書ができあがっていたとしても遺産分割協議は無効になる恐れがあります。

参考 民法第3条の2
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

では相続人に認知症の人がいる場合に遺産分割協議が必要な場合、どうしたら良いのかというと、「成年後見制度」の利用を検討することになります。
認知症の進行状況等によって後見・補佐・補助の審判が家庭裁判所から出ると、後見人・保佐人・補助人が選任されます。
保佐人・補助人は遺産分割協議の代理権が付与されている必要がありますが、認知症になっている相続人のために後見人・保佐人・補助人が遺産分割協議に参加することになります。

成年後見制度の利用を検討するきっかけとして、このような「相続人に認知症の人がいる」場面でというケースが多くみられるようです。

成年後見制度を利用するためには家庭裁判所に申立をする必要があります。
千葉家庭裁判所の後見サイトは記載例も載っていて一般の方でも利用しやすいサイトになっています。

参考 千葉家庭裁判所の後見サイト

 

相続人に連絡が取れない人がいる場合-1

2020-08-18

相続登記をしようとしても、法定相続人のなかに連絡が取れない人(または行方不明の人)がいて手続きが進まない場合があります。

法定相続人といえば普通は兄弟姉妹だから連絡が取れない訳がないんじゃないの?と考える方もいるかもしれませんが、司法書士として相続登記実務に関わっていると、「そうでもない」ことが結構あります。司法書士の仕事を始める前までは「行方不明」という言葉も新聞やニュースでしか耳目にしたことがありませんでしたが実際に行方不明の人がいることを前提に仕事をすることが結構な頻度であるのです。

連絡の取れない法定相続人がいるケースとしては
◊兄弟姉妹間で長年音信不通になっている場合や
◊兄弟姉妹のなかに親よりも先に亡くなった人がいてその子供(おい・めい)に相続権がある(いわゆる代襲相続が発生している)が、疎遠になっている場合
などがあります。

また「音信不通」といってもいろいろあります。
♦今回の相続登記をきっかけに相続人の住所までは確認できたが電話番号が分からない場合や
♦調べてはみたけれど相続人の住所も分からなかった場合
があります。

相続人の「住所が分からない場合」なんてあるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「住民登録が消されてしまっている人」も実際にいるのです。
「職権消除」という手続きで住民票が登録されている役所から「居住の実態がない」と判断されると住民登録が抹消されます。
その結果、「住所が分からない=住所不定」という状態になってしまうわけです。
こうなると共同相続人どうしで話し合いをして遺産分割協議をするということは不可能になります。

民法ではこのような事態に対応するための制度として「不在者財産管理人」という制度を用意しています。

参考 民法第25条(不在者の財産の管理)
第1項 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
第2項 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

実際に不在者財産管理人が選任されるためには、いろいろな要件がありますが、ここでいう「不在者」を「住所が分からない相続人」に置き換えてイメージしてみるとわかりやすいかと思います。
「住所が分からない相続人」に代わってこの不在者財産管理人を相手に相続手続きを進めていくことができる場合があります。

ここで相続手続きを進めていくことができる「場合があります」としたのは、不在者財産管理人が選任されたからといっても、ただちに遺産分割協議が進むという訳ではないからです。

不在者財産管理人に行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加してもらうためには、さらに家庭裁判所から「権限外行為の許可」をもらう必要があります。

不在者財産管理人は、基本的に行方不明となっている相続人のためにその財産を管理(維持)するだけですから積極的に財産を処分したり、遺産分割協議をしたりする行為をすることはできないことになっています。

また遺産分割協議の内容についても、「行方不明だから財産は取得させなくて良いよね!!」などということは許されません。
遺産分割協議の中できちんと行方不明になっている相続人の法定相続分の遺産は確保してあげて、その人が後日戻ってきたときのために不在者財産管理人は遺産を管理しておく必要があるわけです。

後見制度支援信託

2020-08-16

後見制度支援信託とは、成年後見開始の審判を受けた被後見人の財産管理の方法の1つとして活用される信託のことをいいます。

被後見人の財産が多額な場合、後見人にそのすべての財産を管理させることが適当でないと家庭裁判所が判断した場合、その指示によってその後見人が普段使う予定のない金銭を信託銀行等に信託させ、日常的に使う金銭のみをその後見人に管理させる仕組みです。

民法等の法律でこの後見制度支援信託について定めたものありませんが家庭裁判所の後見監督の中で運用されています。
このような運用が生まれた背景としては、後見人による被後見人の財産横領事案が続いたためとも言われています。

後見制度支援信託は、法定成年後見制度と未成年後見制度でのみ運用がされています。
保佐・補助・任意後見では後見制度支援信託は利用されません。以下未成年後見制度は除いて説明していきます。

被後見人の財産のうち、後見人が普段使う予定のない金銭がいくらなのか、日常的に使う金銭がいくらなのかについては当然ですが事案によって異なります。

たとえば被後見人の財産(金銭)が3,000万円あったとすると、そのうちの2,500万円を後見制度支援信託によって信託銀行に預け、残りの500万円を後見人が日常的に管理する、といった仕組みになります。

「普段使う予定のない金銭を信託銀行等に信託する」といっても、後見人が信託銀行等で普通に口座開設をする訳ではありません。
家庭裁判所の指示のもと、信託契約の締結をすることになります。なので、信託銀行等も家庭裁判所発行の指示書(金○○万円を信託する契約を締結することを指示するもの)がないと後見制度支援信託による口座開設には応じてくれません。

参考 大阪家庭裁判所の書式

このように後見制度支援信託は、信託銀行等に「金銭」を信託するものですから、金銭以外の財産(有価証券や不動産)は、いくらその額が大きくてもその対象にはなりません。
ただ被後見人の保有資産に有価証券等(株式・投資信託等)が多く含まれている場合は、後見人によってそれらを売却・解約させ、現金化し後見制度支援信託を利用させるようにするケースもあります。

上記の例で、後見人が普段使う予定の500万円の金銭では後見人の仕事をしていくのに足りなくなってしまう場合も出てきます。
たとえば、施設入所をすることになったとか、重い病気にかかってしまい医療費や介護費用が増加してしまった場合などです。
そのような場合、後見人は家庭裁判所に申立をして、後見制度支援信託で信託している金銭から一時金の交付をうけるよう指示書を受けることもできます。

また年間収支予定がマイナスになることが確実に予想され、定期的に信託財産から金銭の交付を受ける必要がある場合は、後見制度支援信託による信託銀行等との契約締結の際に「定期交付金」という形で信託財産から定期的に日常的に使う金銭を管理している銀行口座に送金してもらう仕組みもあります。

後見制度支援信託を利用した場合、被後見人が委託者兼受益者となり、被後見人が死亡するとその信託は終了します。
後見制度支援信託によって信託された財産は、被後見人(委託者兼受益者)の相続財産として相続人に帰属することになります。

このように後見制度支援信託は、後見人に多額の財産を管理させないようにして横領行為など不正事案を防止することに役立つ制度です。
ただし、後見制度支援信託を利用するためには上述のような信託銀行等との契約締結が必要となり、そのために別の後見人が選任されることになりますので後見人の報酬も別途発生することになります。

被後見人の財産が多額に場合、この後見制度支援信託を利用する方法の他に、後見監督人を選任して後見人の財産管理をチェックしていく方法で後見人の不正防止を図っていくケースもあるようです。

遺言執行者の指定

2020-08-15

 遺言書を作成する場合、公正証書遺言であれば遺言の中身だけではなく、「遺言執行者」も定められていることがほとんどだと思いますが、自筆証書遺言の場合、「誰に何を相続させる」といった遺言の内容だけが書かれていることも多く、「遺言執行者」の指定がなされていないケースがよくあります。

 「遺言執行者」とは、遺言の内容にしたがって実際に銀行や証券会社で解約手続きや売却手続きをしたり、土地・建物の名義変更手続をする人のことをいいます。

参考 民法第1012条
第1項 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
第2項 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

 もっとも遺言書の内容が、「特定の相続人」に、「特定の遺産」を「相続させる」というものであった場合は、遺言者が死亡すると「直ちに」その遺産がその相続人に承継されることになります(平成3年4月19日の最高裁判決)。この遺言によって特定の不動産を相続させるとされた相続人は、直ちに不動産の相続登記を単独で申請することができます。
つまりこの場合、遺言執行者も基本的に不要になります。

 ただし、遺言書の内容が、「相続人またはそれ以外の人」に、「特定の不動産」を「遺贈する」というものであった場合は、遺言者の法定相続人または遺言執行者と遺贈を受ける人(受遺者)が共同で登記申請をする必要があります。この場合、遺言書に「遺言執行者」の指定がなされていれば、法定相続人が多数存在するような場合でも、遺言執行者と受遺者の2名だけで手続きをすることができます。法定相続人の一部が手続きに協力してくれない場合や、行方不明になっている場合などをイメージしてみると、遺言執行者を指定しておくことの重要性がお分かりいただけるのではないでしょうか。

 実際に遺言者が死亡して遺言の内容を実現しようという段階になって、銀行や証券会社、法務局などに出向いても手続きがなかなか前に進まない、ということにならないように遺言書を作成する場合には、遺言執行者の指定を忘れずにしておくことが必要です。

参考 民法第1006条
第1項 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

 

受託者の事務を第三者に委託すること

2020-08-13

 家族信託で受託者となった人は、家族信託の契約で定められた「信託の目的」に従って事務を遂行する義務を負います。

 ただ家族信託の受託者といっても、その事務だけをして生活しているわけではなく、受託者個人の生活と並行して家族信託の受託者としての事務もしていくことになりますから、どうしても自分だけではまかないきれない部分も出てくるかもしれません。

 そこで信託法では、信託契約の中であらかじめ信託事務を第三者に委託することを定めることができるようになっています。信託契約の中で信託事務を第三者に委託する旨の定めがなくても、「信託の目的」に照らして第三者に委託することが相当と認められる場合には、信託事務を第三者に委託することができます。信託契約の中で信託事務を第三者に委託することを禁じる定めがあっても、第三者に委託することがやむを得ない場合には、信託事務を第三者に委託することができます。

参考 信託法第28条
 受託者は、次に掲げる場合には、信託事務の処理を第三者に委託することができる。
一 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき。
二 信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。
三 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。

では、受託者は誰でも好きな人に信託事務を委託できるのでしょうか?この点については、信託法第35条に規定があります。

参考 信託法第35条第1項
 第28条の規定により信託事務の処理を第三者に委託するときは、受託者は、信託の目的に照らして適切な者に委託しなければならない。

 つまり、受託者が第三者に信託事務を委託するための条件としては、「信託の目的に照らして」「適切な者」に信託事務を委託する必要があるということになります。
受託者が適当に好きな人を選んで信託事務を委託するのではなく、家族信託契約で定めた「信託の目的」を読み直して、その信託事務を遂行するのが「適切な」第三者に委託する必要があります。受託者から信託事務を委託される人としては、少なくとも当該家族信託契約の内容を理解していることが最低限必要とされていることはお分かりいただけると思います。

 家族信託契約の受託者としては、信託事務を第三者に委託する場合を想定し、具体的に誰に信託事務を委託するのか決めておく必要があります。「自分の仕事が忙しい」などの理由で家族信託の受託者としての事務がおろそかになると、受益者に損害を与えることにもなりかねません。

家族信託契約を組成する場合は、受託者の責任という観点からこのようなことについても十分検討していくことが求められています。

保証人のための情報提供義務(2020年4月1日改正民法施行)

2020-05-11

2020年4月1日施行の改正民法では、保証人を保護するための制度として情報提供義務の制度が新設されました。
自分が保証人になる前、保証人になった後、主債務者が支払いを遅滞した場合の3つの場面で債務の内容や主債務者の財産、収支の状況などをきちんと確認できるようにして保証人に不測の損害が発生しないようにするための制度です。


  1. 保証人になる前(民法第465条の10第1項)
  2. 保証人になった後(民法第458条の2)
  3. 主債務者が支払いを延滞した場合(民法第458条の3第1項)

    1.保証人になる前(民法第465条の10第1項)
    事業のために負担する債務について保証人になることを他人に依頼する場合の情報提供義務(民法第465条の10第1項)
    事業のために自分が負担する債務について、他人に保証人になること依頼する場合は、保証人になるかどうかの判断材料として
    ①自分(主債務者)の財産や収支の状況
    ②その債務以外に債務がある場合はその額、返済状況(きちんと返済できているか)
    の情報を提供する義務があるということになります。

    参照条文 民法第465条の10第1項
    (契約締結時の情報の提供義務)
    主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
    ① 財産及び収支の状況
    ② 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
    ③ 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

    2.保証人になった後(民法第458条の2)
    主たる債務者から委託を受けて保証人になった人は、「債権者に対して」、主たる債務について支払状況に関する情報提供を求めることができます。
    情報提供の請求を受けた債権者としては、「債務者の情報」を第三者である保証人に開示することになるので個人情報の第三者提供にあたることになりますが
    民法第458条の2は、個人情報保護法には抵触しないということになります。

    参照条文 民法第458条の2
    (主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
    保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

    3.主債務者が支払いを延滞した場合(民法第458条の3第1項)
    主たる債務者が分割払いの支払いを延滞したりして、分割払いの利益を喪失し残金一括請求の対象になった場合、債権者は2ヶ月以内に保証人に対して通知しなければならないことになっています。
    これは、主たる債務者が一括請求を受けると遅延損害金も多額になり、その分だけ保証人の負担も増加することから、保証人を保護するために早めに主たる債務者が経済的危機にあることを知らせる制度です。

    参照条文 民法第465条の3第1項
    (主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
    主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。

     

     


    ◆このように事業のために負担する債務を保証する人に対する保護規定が新設された訳ですが、民法でこのような規定を置かなければならないほど保証人への負担が問題になっているということでもあります。
    事情は人それぞれであり一概には言えませんが、保証人になる場合にはくれぐれも慎重な判断が必要です。


公証人による保証意思確認手続き

2020-05-10

2020年4月1日に施行された改正民法により「公証人による保証意思確認手続き」という制度が新設されました(民法第465条の6)。

事業用の融資を受ける際に、保証人になろうとする個人は、公証人から保証意思の確認を受ける必要があります。
この確認手続きをせずに保証人になった場合は、その契約が無効になります。


この規定の対象とならない場合は次のケースです(民法第465条の9)。
①借入をする債務者が法人で、保証人になる個人がその法人の役員や議決権の過半数を有する株主の場合
②借入をする債務者が個人で、保証人になる個人が共同事業者である場合や事業に従事している配偶者の場合


このような制度ができた理由としては
事業経営をしている人から頼まれて親戚や知人が安易に保証人になってしまった結果、多額の保証債務の請求をされることになるケースを防止するためとされています。
「保証人だけにはなってはいけない」などと言われていても人付き合いの関係で断り切れずに保証人になってしまった結果、事業と全く関係の無い金銭の請求をされることになり
最悪の場合、やむを得ず自己破産を選択することになってしまったという事例もあります。
今回新設された公証人による保証意思の確認制度によりそのような事例が抑制されることが期待されています。

実際の手続きの流れ

保証契約をする前(保証契約締結の日前1ヶ月以内)に、公証役場に出向いて手続きをする必要があります。

公証人から確認される事項としては本人確認は当然のことですが
①保証をしようとしている主債務の具体的な内容を認識しているか
②保証をすることで自らが代わりに支払などをしなければならなくなるという大きなリスクを負担するものであることを理解しているか
③主債務者の財産・収支の状況等について主債務者からどのような情報の提供を受けたか
④保証人になろうと思った動機・経緯
などがあります。

公証人からの保証意思確認手続きが終わると公正証書(保証意思宣明公正証書)が作成されます。

この保証意思確認手続きの手数料(公証人に支払う手数料)は、1通 Ⅰ万1,000円です。

参考条文

(公正証書の作成と保証の効力)
民法 第465条の6
第1項 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
第2項 前項の公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
① 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。
イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。) 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
ロ 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第四百六十五条の四第一項各号若しくは第二項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
② 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
③ 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
④ 公証人が、その証書は前三号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
第3項 前2項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。

敷地権の登記がされる前に購入したマンションの権利証はどれ?  

2020-05-07

マンション(区分建物)を購入すると通常、購入した部屋(専有部分)はもちろん、底地部分(土地)の権利も取得することになります。
「敷地権の登記」がされているマンションであれば、専有部分と底地部分が一体化されたものとして処理されますのでマンション(区分建物)を購入し、売買の登記(所有権移転登記)をすれば、専有部分と底地部分の両方が登記されたことになります。

専有部分は一人が購入すれば持分は当然100%ですが、底地部分は通常マンション全体の専有部分合計床面積を分母にして当該専有部分を分子にした持分割合になったりします。
この考え方で行くとたとえばマンション全体の専有部分合計が1万㎡で、購入した部屋(専有部分)が80㎡だとすると、底地部分の共有持分は1万分の80という計算になります。
敷地権の登記がされたマンショでは底地部分の共有持分を「敷地権の割合」と表現し、「敷地権の割合は1万分の80」と登記されます。

ところが築年数の古いマンションでは、敷地権の登記がされておらず、区分建物(マンションの専有部分)と底地部分の共有持分が別々に登記されているものもあります。
このようなマンションを購入し、売買の登記(所有権移転登記)をする場合、専有部分と底地部分も別々に取り扱われますので、専有部分と底地部分も別々に権利証(登記済証)が発行されています。

このようなマンションでは、その後の登記手続き(売却、担保権設定、担保権抹消など)でもすべて、専有部分と底地部分の2つの不動産として登記をしていく必要があります。
たとえば専有部分については所有権移転による売買の登記申請ですが、底地部分については○○持分全部移転による売買の登記申請となります。
敷地権の登記がされたマンションであれば、単に所有権移転による売買の登記申請のみで完結します。

通常マンションの底地部分の共有持分は何十人、何百人で持ち合うことが多いと思いますが、彼らが売ったり買ったり担保をつけたり外したりとしていくうちに底地部分の登記簿は膨大な登記事項で埋め尽くされていきます。
実際、私も敷地権の登記がされていないマンションの底地の登記簿を閲覧する機会がありますが、該当箇所を探すのに相当労力を要します。
最悪なのは膨大な登記事項のある登記簿を閲覧していく中での閲覧漏れです。

さて、このように専有部分と底地部分の共有持分が別々に登記されているマンションについても後から敷地権の登記をすることができます。
敷地権の登記がされれば、専有部分と底地部分の共有持分は一体化して処分ができますので、例えば売却するにしても単に「所有権移転」と登記すれば良いということになります。

ただし、「敷地権の登記」というのは、専有部分と底地部分の処分を一体として行うことができるようになっただけであって、もともとあった権利証が1つになる訳ではありません。
「敷地権の登記がされる前」に購入したマンションを「敷地権の登記がされた後に」売却する場合、権利証は専有部分と底地部分別々になっていますので、それぞれの権利証を法務局に提出する必要があります。

このようなマンションの登記簿謄本(登記事項証明書)の所有者の欄にある法務局の受付番号(権利証の番号)を見ると、専有部分のものしか記載されていません。
このため売却の際(残金決済の場)に権利証として専有部分の権利証しか準備してこないと売却ができないことになってしまいますので注意が必要です。
もっとも司法書士が立会をするような売買手続きであれば、その司法書士から事前に案内があるはずです。

まとめ

◆敷地権の登記がされる前に購入したマンションの権利証は、専有部分と底地部分の2つが必要。
◆底地部分の共有持分の権利証の番号は登記簿(登記事項証明書)には載っていない。

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