Archive for the ‘家族信託’ Category

受託者が死亡した場合

2018-02-04

家族信託で「委託者」から財産を預かり管理・運用していく立場の「受託者」が死亡してしまったとしても、その「信託」は終了しません。

■信託法第56条第1項第1号をみると、受託者が死亡すると、受託者の「任務が終了する」旨が規定されていますが、「信託が終了する」とは規定されていないことからも明らかです。

■また受託者としての地位は相続の対象にはならないので、受託者の相続人が受託者の地位を承継するわけではありません。

■さらに信託財産は、受託者個人の財産ではありませんから、受託者の相続財産には含まれません。

■信託法第60条第1項、2項では、家族信託で受託者が死亡して「受託者の任務が終了」した場合、その相続人の義務として、知れたる受益者に死亡の旨を通知したり、新受託者が信託事務を引継ぐまで信託財産を保管すべき旨を定めています。

これらのことからも信託法は、受託者が死亡したことをもって直ちに信託が終了するとは考えていないことが分かります。

それでは、受託者が死亡すると、家族信託自体はどのような状態になるのでしょうか。

■最初に決めた信託契約や遺言による信託の定めの中で、当初の受託者が死亡した場合に備えて、つぎの受託者(第二次受託者)の指定があれば、その人が家族信託の引受けをして受託者としての任務を引き継ぐことになります。

■信託契約や遺言による信託の定めの中で、当初の受託者が死亡した場合、つぎの受託者(第二次受託者)の指定がなかった場合や、第二次受託者の指定があっても、その人が受託者の任務を引き受けなかった場合は、委託者と受益者との合意で、新しい受託者を選任できます(信託法第62条第1項)。この時点で受益者と合意する委託者自身もいないという場合は、受益者が単独で受託者を選任することができます(信託法第62条第8項)。

■信託契約や遺言による信託の定めの中で、「受託者がいなくなったときは、受益者が受託者を指名する。」旨を定めておくこともできますので、委託者と協議する必要もなくなります。この時点で委託者が認知症になっているような場合でもスムーズに新しい受託者を決めることができるわけです。

■仮にこのようなルートを辿ることがなくても必要な場合は、利害関係人の申立によって裁判所から新受託者を選任してもらうこともできます(信託法第62条第4項)。

このように受託者が死亡しても、次の受託者を選任するための手続きがあるのですが、受託者が死亡してもそのまま放置してつぎの受託者も就任しない状態が1年間継続してしまうと、せっかく組成した信託自体が終了してしまいますので注意が必要です(信託法第163条第3号)。

家族信託では、委託者のために信託契約を組成しているわけで、受託者が死亡したことだけで信託契約自体を終了させるのは、本来の信託の目的からは考えられないと思いますので、受託者が死亡しても家族信託が存続できるように、次順位の受託者を定めておくのが委託者にとって一番安心なのではないでしょうか。

家族信託専門士

2018-01-29

家族信託普及協会の家族信託専門士研修を受講しました。

無事に研修を修了し家族信託専門士の認定証もいただけました。

家族信託を一般の方に安心して利用していただくために今後とも研鑽に励んでいきたいと思います。

家族信託のセミナー

2018-01-27

1月27日に「家族信託と実家の土地の上手な活用セミナー(主催:旭化成ホームズ)」で家族信託について講師を務めさせていただきました。

きちんとしたセミナールームでさすが大手のハウスメーカーさんという感じでした。

5つのケーススタディとして

・認知症対策としての家族信託

・共有不動産のトラブル回避

・高齢者オーナーの資産管理

・相続対策としての建物建築

・家督相続と孫への資産承継

を紹介して家族信託と成年後見、遺言の違いについても解説させていたただきました。

家族信託のお話をする場合、成年後見(、任意後見)制度や遺言について説明が必須ですし、司法書士もそれらに精通していないと専門家を名乗れないところがありますが、セミナーの参加者の方たちもすでにご自身でかなり情報収集をされている印象がありました。

私としては第2部の土地の上手な活用セミナーで紹介された特定空き家のお話が興味深かったです。

特定空き家については後日あらためて紹介したいと思います。

 

 

 

「遺言による信託」と「遺言信託」

2018-01-11

信託というと、財産を託す人と財産を託される人、委託者と受託者との間の「契約」であって、登場人物は二人以上必要、というイメージがあるかもしれませんが、遺言によって信託を設定することもできます。用語としては、「遺言による信託」です。遺言は単独行為ですから、一人で行うものです。

いっぽうで、銀行や信託銀行の前を通るとチラシやポスターで「遺言信託」という言葉を見かけることがあると思います。
この「遺言信託」は、家族信託でいう「遺言による信託」とはまったく違うものです。

司法書士事務所に信託の相談に来られる方の中にも、この点について勘違いをされている方がいらっしゃるのですが、銀行などで扱っている「遺言信託」というのは「商品名」として使用されているもので、信託法でいう「信託」のことを指しているわけではありません。

銀行などで扱っている「遺言信託」は、私の知る限り、銀行が、お客さんの遺言書の作成のサポートをしたり、作成された遺言書の保管をしたり、実際に遺言書を作成した人が亡くなった際の遺言執行をするサービスを指しています。遺言執行にあたり相続税の申告が必要な場合は、提携先の税理士を紹介されます。税理士の相続税理申告代理手数料は、この遺言信託の手数料には含まれず別途かかるようです。

遺言書の作成のサポート、作成された遺言書の保管、遺言執行者の引き受けは、いずれも銀行だけが取り扱うことのできる仕事ではありません。
私のような司法書士や弁護士でもごく普通の業務として携わっている仕事になります。

ちなみに同じく銀行の窓口などで見かける「遺産承継業務」も、司法書士や弁護士が業務として扱っている仕事です。

銀行口座を持っている人が遺言書を作りたいというタイミングが合えば、銀行の人にそのまま遺言書作成のサポートをお願いする、というのが銀行で扱っている「遺言信託」という「商品名」です。

銀行口座を持っている人が亡くなったということで、相続人の方が銀行の窓口でその申し出をした際に、ついでに遺産承継業務をそのまま銀行に頼む、というのが銀行で扱っている「遺産承継業務」という「商品」です。

いずれも「信託法」でいう「信託」とは全く違うものです。
どうしても「信託」ということばを結びつけるならば、「遺言信託」は「遺言書を作成してそれを銀行に預ける(信託)」というイメージなのでしょうか。

「遺言信託」で銀行に遺言書を保管してもらうにも保管料がかかります。

遺言書をつくった人以外の人に遺言書を保管してもらわなくても、万が一その人が遺言書を失くしてしまったら、公正証書遺言であれば公証役場で原本は保管されていますから
その謄本を発行してもらうことができます。

また日本公証人連合会では、遺言書検索システムがありますので、昭和64年1月1日以後に公正証書で遺言を作成した分については検索が可能になっています。

これらのことも踏まえて遺言書の作成、遺言執行、家族信託など財産の承継について考える場合は、それらの内容と共に、どこに何のサポートを依頼していくのが良いのかを検討していく必要があります。

家族信託と登録免許税

2017-12-23

家族信託を利用して不動産を信託財産に組み入れる場合、所有権移転と信託の登記を申請することになります。

その場合の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の0.4%です。土地については平成31年3月31日までは0.3%になっています。

通常の所有権移転登記の場合、登録免許税は2%ですから信託の登記を申請する場合、通常の所有権移転登記より低額になります。

家族信託と贈与税

2017-12-17

家族信託では贈与税がかからないと言われることがあります。
結論から言うと「かからない場合もあるし、かかる場合もある。」ということになります。

信託では、「委託者」と「受託者」と「受益者」が登場するわけですが、委託者と受益者が同一人物である場合には、実質的に財産(利益)の移転はないため、贈与税の対象にはなりません(自益信託)。

これに対し、委託者と受益者が異なる場合は、信託契約を締結した時点で、委託者から受益者に財産が移転したとみなされますので、贈与税の対象になります(他益信託)。

家族信託においては、自益信託(委託者と受益者が同一人物である場合)を念頭に進めていくことがほとんどですから、家族信託契約をした途端に贈与税がかかるといったことはないでしょう。

しかし、税務面を考慮しないで安易に家族信託を組成してしまうと思わぬところで「こんなはずじゃなかった。」ということになってしまいますので注意が必要です。

家族信託を考える際には、受益者を誰にするか、どのような順序で受益者を並べるかが贈与税の面からも重要なポイントになってきます。

家族信託と相続税

2017-11-29

家族信託を利用すると、その設定の仕方次第で「相続対策」には有効な場合がありますが、
家族信託の利用が「相続税対策」に有効かというと、結論から言うと利用してもしなくても変わらないということになります。

家族信託を利用しても相続税の評価については、土地については路線価を、建物については固定資産税評価額を基準に評価するのは変わりません。小規模宅地の特例制度についても、家族信託を利用した場合も適用されます。

家族信託は相続税対策に有効だと誤解をされる方もいるようですが、「相続対策」と「相続税対策」とは違うということは理解しておく必要があります。

家族信託についての連載記事

2017-11-19

11月18日の朝日新聞Beに家族信託についての連載記事「家族信託を知る」が出ていました。毎週土曜日に5回にわたって載るみたいです。

一般の人にわかりやすいようにイラスト付きで書かれていましたが、一回読んだだけでは何のことか分からないのではないかなぁと思いました。

NHKのあさイチでも紹介されるようですし、少しずつ認知されていけば良いなぁと思います。

家族信託が知られるようになれば、相続をめぐる実務も必ず大きく変化していくと思います。

信託財産としての株式を事業承継対策に利用する

2017-11-12

信託というと、金銭や不動産を対象として思い浮かべることが多いですが、株式も信託財産として設定することができます。

家族経営の中小企業や、起業をして1人株主で設立した会社経営者にとって、自社株式を信託することで、円滑な事業承継を進めることが可能になります。

ここでいう円滑な事業承継とは、現在の経営体制を維持していくということを想定していますので、家族内で話し合って「今後、会社経営をしていくのは、○○にしよう」というという合意ができていることが前提となります。

家族経営のような中小企業の場合、会社法以前の商法にもとづいて株式会社を設立していると、発起人(創業者メンバーとしての出資者=株主)が7名以上存在していることも多いですが、その株主たちが高齢になり、会社の意思決定をおこなう株主として議決権を行使することが難しくなるとか、亡くなって相続が発生すると株主としての地位が複数の相続人に分散してしまうことがあります。

相続によって株主としての地位が複数の相続人に移ったとしても、家族内なのだから問題ないじゃないかという考え方もありますが、相続によって配偶者やその子どもたちに株主としての地位が承継されたとしても、当の本人らは会社経営に興味がないことも多く、経済的価値(=配当金や株式の価値)のみに関心があるか、そもそもそういったことに一切関心がないこともあります。

ただ会社を経営している執行部(役員)としては、そのような人物が、もし会社の意思決定に必要な議決権の過半数を占めるような事態になったら、いつ会社の経営方針が180度転換してしまうかも分からず、安定した経営基盤を維持することはできなくなってしまいます。

具体的には、会社の重要な財産を処分するとか、金融機関等から資金調達をするとか、新役員を迎え入れるとかに際して、株主総会で承認決議を得ようとしても、スムーズにことが進まない恐れもでてくる訳です。

株主が死亡した場合に備えて、会社の定款で、株主が死亡した場合、会社は株主の相続人に対して株式売渡請求ができる旨を定めてあれば、会社経営に関与していなかった人物が株主になることを防止することができます(会社法第174条)。

ただし会社はその株主に相続があったことを知った日から1年以内に請求をしなければなりません(会社法第176条1項)し、株式の売買価格について協議が必要だとか、協議が整わない場合は、20日以内に裁判所に価格決定の申立をしなければならないとか、協議を経ずに裁判所に価格決定の申立をするケースもありますので迅速な対応が必要となってきます(会社法第177条)。

もし創業者メンバーが7名いたとして各々について相続が発生したとしたら、その都度このような対応をしていく必要があり、とても煩雑だけではなく対応に苦慮する可能性もあります。

ここで選択肢の1つとして登場するのが株式の信託です。

たとえば現時点で存在している株主どうしで話し合いをして合意形成をし、現在の株主7名を各々委託者兼受益者、現在のオーナー社長の後継者を受託者とする信託契約をする方法があります。

株式の信託によって受託者は、会社の全議決権を行使できるようになりますから、会社の意思決定に不安要素はなくなります。

もし信託契約締結時に存在していた株主が死亡した場合は、信託契約に定めた受益者変更手続きによって、その株主の相続人が新たな受益者になるとか、その受益権を会社が買い取るとか信託契約の定め方にもよりますが、少なくとも会社の経営基盤が危うくなるような事態にはならないようにすることができます。

現在のオーナー社長が亡くなった場合は、その時点での委託者の状況にもよりますが、信託は終了すると定めておくか、受託者が交替するように定めて信託を継続していくことも可能です。

 

 

 

受託者と受益者の関係

2017-11-09

信託法8条は、(受託者の利益享受の禁止)として「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。」と規定しています。

ここで「受益者として信託の利益を享受する場合を除き」とありますから、受託者は受益者を兼ねることができることを前提としています。

また「何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない」とありますから、受託者本人以外の名義を借りて受託者が実質的に信託の利益を受けることを禁止しています。

たとえば、受託者本人が受益権を得られるように自分の親族名義で受益権(信託の報酬は除く)を取得するような内容の信託を設定することはできません。

信託の設定を検討する場合は、委託者の意思を尊重することは当然ですが、受託者の意思も確認した上で手続きを進めていく必要があります。

 

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