公立図書館に収蔵されていた自分の著作物が、独断的な評価や個人的な好みによって廃棄処分になっていた場合、著作者は損害賠償請求ができるかという事案について最高裁判所の判決があります。
公立図書館の職員である公務員が、閲覧に供されている図書の廃棄について、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというのが最高裁判所の判断です。
東京高等裁判所は、著作権又は著作者人格権等の侵害を伴う場合は格別として、著作者は何ら法的権利を有しないとして損害賠償請求を退けました。
しかし最高裁判所は、東京高等裁判所の判断を破棄し著作者からの損害賠償請求を認めました。
■最高裁判所が認めなかった東京高等裁判所の判断(東京高等裁判所 平成16年3月3日判決)
・著作者は、その著作物を図書館が購入することを法的に請求することができる地位にはない。
・著作者は、その著作物が図書館に購入された場合でも、当該図書館に対し,これを閲覧に供する方法について、著作権又は著作者人格権等の侵害を伴う場合は格別、それ以外には法律上何らかの具体的な請求ができる地位に立たない。
・したがって、図書館に収蔵され閲覧に供されている書籍の著作者は、その著作物が図書館に収蔵され閲覧に供されることにつき、何ら法的な権利利益を有しない。
・そうすると、本件廃棄によって権利利益が侵害されたことを前提とする主張は採用できない。
■最高裁判所の判断理由は大要以下のような論旨で損害賠償請求を認めました。
・公立図書館は、地方公共団体が設置した公の施設である。
・公立図書館は、住民に対して思想,意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができる。
・公立図書館の図書館職員は、公立図書館が上記のような役割を果たせるように、独断的な評価や個人的な好みにとらわれることなく、公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきである。
・公立図書館の図書館職員が、閲覧に供されている図書について独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは、図書館職員としての基本的な職務上の義務に反する。
・公立図書館が、住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは、そこで閲覧に供された図書の著作者にとって、その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもある。
・したがって、公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によって
その思想、意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なう。
・著作者の思想の自由・表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると、公立図書館において、その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は、法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当である。
・本件廃棄処分は、公立図書館職員が、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって行ったものであるから、本件廃棄処分により、著作者の人格的利益は違法に侵害された。
と展開しています。