成年後見人の取消権については、民法第9条に規定されています。
民法第9条
「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」
成年後見人が、成年被後見人に対して、「~を買って良いですよ」と特定の法律行為に対して同意をしたとしても、取り消すことができるとされています。
想定される場面はかなり限定されると思いますが、成年被後見人から「成年後見人から同意を得ている」と聞いて、お店の人が成年被後見人と取引(高価な品物の売買)をしたような場合、取引の相手方(お店)としてはたとえ「後見人が同意していた」としても、成年被後見人後見人からの売買契約の取り消しの主張を認めざるを得ないということになります。それだけ成年被後見人の保護を図る要請が高いということになります。
誰が取り消すことができるのか(取消権者)については、民法第120条第1項の規定により、成年被後見人本人(とその承継人)と成年後見人とされています。
民法第120条第1項
「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。」
民法第9条ただし書には、「ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」と規定されています。
成年被後見人であっても「日常生活に関する行為」については、取り消しの対象とはされていません。成年被後見人の自己決定権の尊重の観点からこのように規定されています。もっとも、行為時点で成年被後見人が完全な意思無能力の状態だった場合は、そもそも法律行為は無効となりますので取り消しの話にはなりません。
またこれに関連して成年被後見人の身分行為(婚姻、協議離婚、認知、遺言など)についても、成年被後見人が意思能力を回復した状態であれば、成年被後見人が単独で行うことができるとされています。
婚姻について
民法第738条
「成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。」
協議離婚について
民法第764条
「第738条、第739条及び第747条の規定は、協議上の離婚について準用する。」とされていますので、成年被後見人が協議離婚をするには、その成年後見人の同意を要しない。ということになります。
認知について
民法第780条
「認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。」
遺言について
民法第962条
「第5条、第9条、第13条 及び第17条 の規定は、遺言については、適用しない。」とされていますので、成年被後見人のした遺言を成年後見人が取り消すことはできないということになります。
これらの行為は一身専属的なものであり成年被後見人の本人の意思の尊重をすべきとの観点からこのように規定されています。
このことからも分かるように
「遺言書の作成は成年被後見人にはできない。」というのは字面からいうと間違っていることになります。